ジャズの事は良い人だとセイは認識している。
　巨大なロボット達は誰もが自分の事をティスランドと呼び、セイとして扱ってくれる存在は誰一人として居なかった中、ジャズだけはセイを認めてくれた。
　その事が何よりも嬉しかったからこそオプティマスからの提案を受け入れたのだ。

　「（・・・あれ？でもなんで私はジャズさんを”同じ”だって思えたの？似たような目をしていたし、ジャズさん自身も同じだって言っていたけど。でもどうして私は初対面のはずの人を信じたんだろう？）」

人見知りの自分ではあり得ないことだ。
　そう思いながらセイはチラリとジャズへと視線を向ければ、彼はハンドルを握ったままジッと前を見ていた。
　日本人離れした顔立ち、整った顔、鍛えられた身体、何もかもが平凡としか言い様のないセイとの共通点は全くと言って良いほどない。
　それなのにセイはジャズへの警戒心を無意識の内に解いた。
　まるでそうすることが当然のことのように。
　そうして気づけば今の状況だ。
　本当にどうしてこうなったのだろうか？そう思ったセイは自分の両手を見下ろす。
　見慣れたはずの両手だ。
　ソレなのに何故かセイは“今”の自分の手に違和感を感じ取っていた。
　本当の手はもっと無骨で、そう金属のようで、戦う者の手をしていたはずだ。
　そう思った瞬間、ふっと目の前に白い機械の手が浮かぶ。
　あぁ、”これ”だ。
　そう、”これ”だ。
　何かが、誰かがそっと囁いた。

　「ッ！？」

頭の中に声が響いた瞬間はヒュッと息を吸い込むのと同時に身体を大きくビクリと震わせた。

　「セイ？どうした？」

　『俺なんかしたか！？一応、安全運転していたんだけどッ！？』

セイの反応にジャズとサイドスワイプが驚いたように声を掛けてきた。
　それに対しセイは何でも無いと言いながらぎこちなく笑いながら手をギュッと握りしめる。
　握った手は柔らかな人のもので決して金属では無い。
　だからきっと今見えたあの手はきっと見間違いだ、と
　自分の手が金属になどなるわけ無いのだ、と。
　セイは自分に言い聞かせる。

　「（今乗っている車、えぇっと確かサイドスワイプさんだったかな？も大きなロボットになるんだよね・・・・）」

足がタイヤになっていたロボットが突然、目の前で車に変形したのを目の当たりにしたセイは最初信じられなかった。
　だがあの場に居た者達はそれを当たり前の光景だというかのような顔をして受け入れていた。
　目を覚ましたら解らない事ばかりが起きている。
　自分だけが一人、取り残されたような錯覚をセイは抱いていた。

　「セイ。今夜の寝床だが、ちょっと目をつけていた場所があるんだがそこでも良いか？前々から泊まってみたかった場所なんだよなぁ」

　『それって前にバンブルビーがサムと一緒に行ったっていう場所か？』

　「そうそう！ビーから聞いて俺も行きたいって思ってたんだよ。今回はまたとないチャンスだからな」

ラジオを通してサイドスワイプと会話をしていたジャズはチラリと青い目をセイへと向けてきたため、セイは了承するかのようにコクリと頷く。

　「えぇ。勿論構いません。その・・・私はこの土地に関して何も知らないので全部ジャズさんに任せてしまって申し訳ないです」

　「気にしなくて良いさ」

　「・・・助かります」

　「そう思うならその他人行儀なしゃべり方を変えて欲しいもんだ」

苦笑交じりに返された言葉にセイは日本人特有の曖昧な笑みを浮かべて返す。
　それは暗に断る、という意味である事をジャスは悟っていたが声にして言われたことでは無かったためスルーした。