運転席に座っているのはジャズで絶えず鼻歌を歌っており上機嫌である事は明らかだ。
　時折ラジオを通してこの車、サイドスワイプと音楽に関して色々と会話をしているのだがそれにセイが加わる事はしない。
　助手席の上で極力気配を消しながらジッと座っているだけだ。
　セイは何故こうなったのだろうか？と、どこか絶望した目をしながら凄まじい速さですぎていく外の景色を見つめながら、こうなる原因となったオプティマスとの会話を思い出す。



　『今の君はセイ、だったな。君にはこれからジャズと共に外出して欲しい。帰還予定は一週間後を予定している』

　「そんなに長くですか？あの、どこに行けば？」

　『詳細は全てジャズに伝えてある。君は彼の指示に従ってくれ』

　「解りました」



理由も分からぬままジャズと一緒に行動を共にするようになったセイは困ったように眦を下げた。
　そもそも今の自分の身に起きた事をセイは良く認識していないのだ。
　朧気ながら覚えていることもあるし、はっきりと覚えている事もある。
　まるで夢を見ているような感覚がした。
　そんな記憶の中で何より一番強烈に覚えているのは自分の身体を引き裂いていく銃弾、そして固いアスファルトに叩付けられた事だ。

　「（アレで私は死んだ）」

それだけははっきりと認識できた。
　けれど何故か怪我一つ無い状態で自分は生きてこの場に居て、家族と別れてたった独りでこの見知らぬ土地で生きている。
　そっと自分の胸元に手を置いたセイは微かに伝わってくる気配にホッと胸をなで下ろした時だ。
　
　「セイ」

　「は、はいぃぃぃッ！？なんでしょうか！？」

　「・・・あーそんなにビビるなよ？ちょっと傷つく」

　「すみません」

　「謝らなくても良いって。そろそろ昼飯にしようと思うんだが食べたいものとかあるか？金は気にしなくても良いぞ」

突然振られた話題にセイは引きつった笑みを浮かべて沈黙することしか出来ない。
　こういった場合、どんな返答をするのが一番良いのだろうか？と必死に考える。
　セイは元々それほど異性と積極的にコミュニケーションを取れるような性格では無い。と、いうよりも初対面の人と円滑に気軽に会話できるようなタイプでは無いのだ。
　出会って間もない人とこんな風に旅行するなどセイにとってあり得ない事態で、どう反応して良いのか全くと言って良いほど解らない。

　「あの、ジャズさんは何か食べたいものとかありますか？」

　「質問に質問で返すのはお行儀が悪いぜ？んで？セイは何が食べたい？」

ジャズはあくまでもセイの返答を求めていた。
　自身の考えは言わず、ただセイが口にする言葉を無言のまま求めている。
　そんなジャズの行動は無言の圧力を感じさせ、ただでさえ緊張してあまり良く思考がまとまっていなかったセイに対して凄まじい威圧感となって襲いかかった。
　セイは青い顔をして視線を左右に彷徨わせたり、何か言いたげに必死に言葉を探して唇を動かしている姿があまりにも可哀想になったサイドスワイプは助け船を出してやることにする。

　『なぁなぁここから１０分くらい走ったところにセイと同い年くらいの女から評価の高い店あるぜ？値段も良心的だしそこなんてどうだ？』

　「・・・・そうだな。そこで良いか？」
　
　「はい」

消えそうな声で返事をしたセイの姿をジャズはジッと見つめていたが、何も言わないままそっと視線を逸らすとそれ以降、口を開くことはしなかった。