とても寒い。
　そう思いながら目を覚ます。
　ゆっくりと目を開くと見慣れない天井が視界いっぱいに広がった。それをぼんやりと見つめていると、見覚えのあるカラーリングが突然視界の中に入り込む。

　『目が覚めたようだね』

手に持っていた何かを慣れた手つきで操作しながらソレは流暢な言葉で話しかけてきた。
　どこか知的な青い瞳を無言のままジッと見つめていると、私は彼を知っているのだと思えた。
　彼の事は解らないが、敵ではないのだとそう頭が決断を下す。

　『気分はどうかな？あぁ・・・君の状態があまりにも酷かったので、パーツの不足を補うために一時的に人間の状態にさせてもらった。今、君の両手と左足をジョルトが作成している最中だ。完成次第すぐに君の身体を元に戻すから安心してくれ』

　「あの」

　『それにしても実に有意義な時間を過ごさせて貰った。緊急時だったとは言え、私の言い分をオプティマスやアイアンハイドがあぁも素直に信じてくれるとは思わなかった！！！君に関して知りたかったアレやコレを思う存分調べられたからね！！』

　「あの、すみません」

　『そもそも君は隠し事が多すぎる！！人間に、あぁその状態は今後ヒューマンモードと呼ばせて貰うがその状態になれることも、戦闘機になれることも、最初から教えてくれれば良かったのだよ！！そうしたのならば私だって色々と調べられたのにッ！！！』

ぐっと握り拳を握った彼を見つめながらゆっくりと身体を起こした時、自分が衣服を何一つ纏っておらず、それを隠すものが何も無いことに気づくと悲鳴を上げた。

　『ティスランド？』

　「私はそんな名前じゃありませんっ！！私はセイです！！ってか何か着るものを下さい！！！何で私は裸なのッ！！貴方頭可笑しいでしょッ！！！」

四肢を引き寄せたティスランドは羞恥の悲鳴をあげながら必死に自分の訴えを伝えれば、彼は驚いたように目を瞬かせた後、無言のまま部屋を退出した。
　広い部屋の中で一人きりになったティスランドは色々な意味でガタガタと震えながら身を丸めていたとき、誰かが近づいてくる気配に気づく。

　「ティスランド！目が覚めたんだな！！」

聞こえた声に視線を向ければこれまたどこか見覚えのある人物が毛布を持って立っており、彼は安心したというかのような笑みを浮かべながら近づいてきた。
　ただ、彼女にとっては彼が異性であった事が唯一にして最大の問題だった。
　年上のイケメンマッチョが毛布を持ったまま爽やかな笑みを浮かべながら、素っ裸の自分に近づいてくるという状況に気づいたのと同時に悲鳴を上げた。

　「こっちに来ないでッ！！」

　「・・・・え？」

　「変態！！」

必死に身体を丸めながら絶叫したティスランドの発言に現れた男は青い顔をしたまま立ち尽くすことしか出来なかった。
　
　『な？レノックス少佐。私の説明したとおりだろう？ティスランドの目が覚めてからちょっと可笑しいのだよ』

　「ラチェット。お前さん何をした？」

　『・・・・別に？何もしていないが？』

一寸間を置いてから返された発言にレノックスは疲れたようにため息を吐いた後、怯えるかのように震えているティスランドへと近づくと、極力裸の彼女を見ないようにしつつ頭から毛布を掛けてやった。

　「服はすぐに用意する。おまえさんのサイズに合わせた服をいくつか発注しておいたからな？あー・・・だから、そんなに怯えないでくれると嬉しいなぁ？ほらほら。俺は怖くないぞー？いつも通りの優しいレノックス少佐だぞー？」

　「やだッ！！こっち来ないで！！あっちに行って下さい！！！」

恐怖に引きつった顔をして言われた凄まじい拒絶にレノックスは固まった。
　レノックスの脳裏に浮かぶのはアナベルの姿だ。
　今はまだ赤子のアナベルが後に成長し、彼女から今言われたような発言を言われたのならば、そんなことを想像したレノックスは考えることを放棄する。