積年の恨みを込めた相手の気配を誰よりも早く察知したのはソレと永い付き合いのある彼だった。気づけば主導権は彼が握り始めていて、ティスランドではなく、ストラトスが身体を支配していた。

　「『はははっ！！やっぱり来やがったか！！』」

ニタリと笑ったストラトスが窓を開けるのと同時に拳銃を取り出すと開けている窓から身を乗り出して迷うこと無くソレを何発も空に向かって放つ。
　届かないことくらい解っている。
　それでも地上から放たれた攻撃をあのスタースクリームが気づかないわけが無いのだ。
　
　「『アレの相手は”俺”が引き受ける！！お前達は任務を全うしろッ！！！』」

狂喜を隠すことをしないままそう宣言したストラトスは後部座席のドアを迷うこと無く開ける。
　突然のことに驚いたバンブルビーが急停止した事により車内に悲鳴が響く。

　「ちょっ！？ティスランド？！なにしてるの！？」

危ないだろうと言うかのようにサムは抗議するが、サムの声などまるで聞こえてはいないのだと言うかのように無視したストラトスは、バンブルビーから降りるとドアを乱暴に閉める。

　「『人間共の護衛は任せるぞ』」

一方的にそう宣言したストラトスは空に向かって異常とも思えるような執拗な攻撃を開始した。
　聞こえてくる発砲音を合図にバンブルビーは走り出す。

　「ティスランド！？」

　『”彼女なら大丈夫ッ！！』

この場から逃げるかのように勢いよく加速したバンブルビーの発言にサムはそんなわけないだろうと思う。
　窓越しに見えた景色、それは一言で言うのならば戦場だ。
　命を賭けて戦う場所。
　そんな場所に嬉々として降りていったティスランドの事がサムには心配でしか無い。

　「大丈夫だろうさ。あのお嬢さんは勝算も無いまま戦うタイプには見えん」

サムを安心させるかのようにシモンズが告げる。
　その言葉にサムはそうかもしれないと、自分に言い聞かせると今の自分にしか出来ない事を遂行することを選択した。
　その一方、サムの気持ちすら欠片も理解することもしないストラトスは本能の赴くまま動いていた。
　最後の弾丸を撃ち終えてその役目を終えた拳銃を砂の上へと投げ捨てる。

　「『ッチ・・・』」

舌打ちをしたストラトスはこのままの姿で攻撃しても意味は成さないと判断すると、この使えない身体を放棄することを決めた。
　スタースクリームと同じく戦闘機へとトランスフォームしようとしたが、廃墟での戦いにおいて内部システムに損傷があったらしく戦闘機にトランスフォームすることを拒否するかのようにエラーが彼の視界に表示される。

　「『おいおい。冗談は止めてくれよ？またとない絶好の好機なんだぜ？』」

楽しげな声音でそう言ったのは男のものだ。
　無数に表示されているエラーを無視ししたままソレはトランスフォームを開始した。
　後に生じるだろう障害など無視したまま、自身の欲求を満たすためだけに自身の身体へ変化させる。
　勿論、ソレがトランスフォームしたのは戦闘機だ。
　空を自由に飛ぶ。
　持って生まれた性分に従うかのようにソレは変形すると、因縁の相手へと迷うこと無く攻撃を開始した。

　『よぉ？おべっか野郎』

　『ストラトス！？貴様いつの間に戦闘機になった！？』

　『テメェには関係ねぇだろう。ってことで早速だが俺のために死んでくれ』

ソレを合図に上空にて戦闘が開始された。