いつにないほど張り詰めた車内でティスランドは自分への質問がいつ来るのだろうかと待っていた。
　ずっと隠してきたのだからサムが怒るのは当然だ。
　人間の立場からセイは告げる。
　守られているだけの弱い奴が調子に乗るな。
　人外の存在であるストラトスから訴えられた感情。
　正反対な２人の意思にティスランドはどうしたものかと考えた時だ。

　「なんで隠していたの？」

ハンドルを握り前を見たままサムは問いかける。

　「オプティマスからの命令だった。・・・私の正体をサムに言ってはならないと。オプティマスは、貴方が平穏な生活に戻りたがっていたことを知っていた。だからこそ貴方の護衛として派遣した私に正体を知らせるなと言ったのだと思う」

　「へぇ」

　『”私も同罪””だって知っていたもの”』

ティスランドを庇うかのようにバンブルビーがラジオを通して訴えてくる。
　悲痛なその声にサムは無言のままハンドルを握りしめた。
　いつだって自分が何も知らないまま守られてばかりいる。
　その結果、誰かが常に知らぬ所で犠牲になっていることがサムには許せない。
　
　「すまない。サム・ウィトウィッキー・・・貴方の怒りは当たり前のことだ。私を殴りたいのならば殴っても構わない。それをする権利が貴方にはある」

そう告げた瞬間、サムはバンブルビーのブレーキを勢いよく踏んだ。
　身体が前に傾くほどの衝撃にティスランドが驚いていることしか出来ない中、運転席から振り返ったサムは凄まじい目をしてティスランドを睨み付けた。

　「君、本気で言っているの？なら本当に馬鹿だよね？僕は君に何度命を助けられたと思っているわけ？そんな君を殴れって？馬鹿も休み休み言ってよ！！！」

　「・・・貴方を守るのが私の任務だ」

　「君って頭固すぎじゃない？今の返しはクソ面白くないよ」

　「そうだろうか？」

困惑した声でティスランドは告げたとき、脳裏にジャズの顔が思い浮かんだ。
　彼はティスランドの性格を、思考を、在り方を良い意味で評価してくれてはいたが、時折もっと肩の力を抜けだの、他人に甘えろだの言っていたことを思い出す。
　ジャズの言いたかった事も、サムの言っている事も、どちらも根っこの部分が繋がっているような気がティスランドにした時だ。

　「女の子を殴る趣味は僕には無い」

　「ならば・・・バンブルビーと同じ姿になれば問題は無いな？」

　「止めて！僕の手が折れるから！！君ってなんでそうやって真面目な顔をしたまま馬鹿みたいな発言をするわけ！？」

　「いや、この姿を殴れないのならば当たり前の選択肢になるだろう」

　「ビー！！ティスランドをなんとかして！！！」

　『”無～理～”』

ゲラゲラと下品な笑い声を響かせながらバンブルビーは答える。
　あまりにもふざけたソレにティスランドが抗議しようとしたときだ。

　「サムはもう怒っていないわ・・・ただ、秘密にされたのが面白くないだけよ。まぁ私もそれは同じだけどね」

　「すまない」

　「別に良いわ。助けられたのは事実だしね。まぁ約一名、失恋した人物が居るみたいだけど？」

楽しげな声でミカエラは告げながら流し目でレオへと視線を向けたため、ティスランドも彼を見るとレオは絶望した顔をしてシモンズに抱きついていた。

　「良いんだ若者。その痛みはいずれお前の糧となる」

妙に良い発言をしたシモンズの言葉を聞いた瞬間、レオの号泣する声が車内に響いた。