狭い工具箱の中でホィーリーは虎視眈々と脱出の機会を狙っていた。
　自分をペットのように扱ったミカエラに復讐すべきだと考える反面、焼き切られた目玉がジクジクと痛みそれを止めろと訴えてくる。
　どうしたものかと考えていた時、工具箱の鍵が外される音がした。

　『チャーンス！』

ニヤリと笑ったホィーリーは開かれていく蓋を睨み付ける。
　自分が出られるだけの空間を確保出来たのと同時に、ホィーリーは飛び出そうとしたがソレよりも先に何かが工具箱の中に飛び込んでくる。
　微かに左肩装甲をえぐったソレををホィーリーは検索する。

　『・・・は？』

それは銃弾だ。
　あのミカエラでもいくら何でもそんな物騒な武器は持っていなかったはずだ、そう思いながらホィーリーは箱の隅へと身を寄せたときだった。

　「はじめまして？」

物騒なものを手に持ち、銃口を迷うことなく自分へと定めた女がいた。
　目の色がオートボット同じ青で、キラキラと輝くソレをホィーリーは見つめる。オートボットが所有している技術の中には擬態能力はなかったはずだと必死にブレインで考える。
　目の前にいる人物の存在はあり得ないことだと自分の直感が告げているのだが、憎い敵と同じ色を持つ女は間違いなくオートボットだ。

　「余計なことはしゃべるな、解ったか？あまり物騒なことはしなくないんだ。こう見えても平和主義者なんでね」

　『・・・拳銃構えて脅してくるヤツが言う台詞かよ？正義の味方が聞いて呆れるぜ』

　「別に私は正義の味方になってはいない。ただ、与えられた任務を遂行するだけだ」

無駄口は禁止すると言うかのように銃が近づいてくる。
　降参だと言うかのように両手を上げたホィーリーに向かい女、ティスランドは満足そうに微笑む。
　その笑みが戦う者らしくないことに気づいたホィーリーは複雑な心境になりつつも工具箱の中からゆっくりと出てくる。
　部屋の中は見たことがなく、隅の方で男が三人、身を寄せていた。
　その中にサム・ウィトウィッキーの存在がいたことにホィーリーは気づくが、すでに自分は任務を失敗した身である事を思い出すと見なかったふりをすることを選ぶ。

　「名前は？」

　『・・・聞いてどうする？俺を破壊するんだろう？』

　「しない」

　『どうだかな』

　「少なくとも、私はしない」

少しだけ青い目が細められる。
　ティスランドならば捕虜を殺すことはしない。オートボットの矜持がソレを許さないからだ。
　だが、ストラトスならば容赦なく殺すだろう。
　任務を遂行出来ない者は不要だと判断して。過去に実際にそうやって失敗した者をスタースクリームからの命令で処分した時の記憶がティスランドの頭の中に流れ込んでくる。
　嫌な記憶だ、そう思ったティスランドが顔を歪めた時だった。

　『ホィーリー、だ・・・どうせ俺には逃げ場所もないし、アンタと戦って勝ち目はないだろうからな』

　「私はティスランド」

構えていた銃を下ろしたティスランドをホィーリーは信じられない面持ちで見つめる。
　オートボットが自分の発言を信用すると、受け入れると思っていなかったからだ。
　
　「お前に聞きたいことがあるんだ。協力してくれるな？」

トントンっと机の上を指で叩いたティスランドの側にホィーリーは近づく。
　そこには随分と古い存在が写っており、懐かしいその姿に彼は驚いたように片方しかない青い目をカシャカシャとせわしなく動かした。