オプティマスがメガトロンの手によって破壊された。
　その言葉にティスランドはどうしたものかと考える。彼亡き後のオートボット、それを率いるのは将校であるジャズであるのは容易に理解ができ、他のオートボット達がその命令に素直に従うことも予想出来る。
　それだけの実力も判断力もジャズにはある。
　オートボットに関しては何の憂いは無いとティスランドは判断していた。
　ただ一つだけこの問題に関して重大が事が起こっている。

　「我々とは違って人間側の問題はそう簡単に解決しそうもないな」

現に、サムの身柄を差し出せというメッセージが世界中に出されているのだから。
　監視カメラを使い人間はサムを見つけ出すだろう。
　そして捕まえた彼をディセプティコンへと差し出し、己の保身を計るのは間違いない。
　その後に待ち構えている展開なんて解りきっているというのに。

　『”我々には自由がない””解放せよ！”』

ＮＥＳＴ基地にいるオートボット達が人間の手によって拘束され、ディセプティコンの手からサムを守ることが難しくなってしまっている。
　自ら破滅の道を突き進んでいく人間達の決定にティスランドは苦笑を浮かべた。

　「その通りだ。我々がいなくなればディセプティコンにこの星は支配されるというのに・・・何故そんな簡単なことが理解ができなんだろうか」

ＮＥＳＴ基地へと来ている政府高官達をティスランドは何度か見たことがあった。彼らの考えている事はいつだって同じだ。
　優れた技術力を人間へと提供し、そして機会生命体はこの星を去れ、と言っているのだ。
　感情のない、心のない、ただの金属だと人間達は思っている。ティスランドはそれらの意見をどこか冷めた目で見ていた。
　過去に人間だった頃、セイであったころの記憶を呼び起こす。
　その時の自分ならば政府の出した答えを当たり前のように受け入れ、そして厄介ごとを起こしているオートボット達に早く地球から去って欲しいと願っただろう。
　今の自分の生活が良ければそれで良いのだと思い。

　「それが、間違いだと後になって気づくのにね」

取り返しのつかない間違いを起こしてから人は初めて自分の出した答えが間違いであることを認識する。
　その場の感情にまかせるという最も愚かな判断だ。
　人ではないストラトスとティスランドはその決断を間違いだと解っているが、かつて人間だったセイには当たり前の決断でしかない。
　様々な考えが胸の中で渦を巻くのを感じながらゆっくりと口を動かす。

　「私はどうしたいのかなぁ？ウィトウィッキーさんを守らないといけないことは解るけど・・・どうやって守れば良いのか全く解らないや」

バンブルビーの中で膝を抱えたティスランドが呟いた言葉に返答はない。
　それきり言葉を閉ざしてしまったティスランドをバンブルビーは黙って見つめていた。
　この新人の様子が少しおかしいことは分っていた。
　いつもは冷静で最良の判断をするというのに、あの廃墟でディセプティコンと戦っていた時はソレを投げ捨てて凄まじい勢いで攻撃をする姿を見ているからだ。
　自分とは違い、少しばかり感情表現が下手だとバンブルビーは思っていたが、自分の目の前にいるティスランドはどこにでもいる普通の人間のように見えた。
　それこそサムと同じように感じられたバンブルビーは躊躇いながら問いかける。

　『”君は人間？”』

ジャズと別れる時、彼はティスランドのことを導いてやれと言っていた。
　スキッズとマッドフラップ、そしてティスランドの中ではバンブルビーが一番年上になるのだ。
　上の者が幼い者達を導くのは当然のことである事くらいバンブルビーとて理解している。だが、今になればジャズの言っていた導いてやれと言葉の認識を自分は誤ったのではないだろうかと考え始めていた。

　「私は、」

続く言葉は出てこない。
　人間と同じ姿になることができる同胞に向かいバンブルビーはいくつか問いかけるのだが、ティスランドはどう言葉を返せば良いの変わらないらしく沈黙する。
　
　「私はなんだろうな？」

困ったように微笑んだティスランドに向かいバンブルビーはかける言葉を見つけられない。
　自分から問いかけたというのに、その問いに対する答えが見つからないのだ。
　こんな時、嫌でも自分の未熟さというのを認識させられる。
　こんな時、彼ならばどうするのだろうかと考える。
　こんな時、あの人ならばどう教えて上げるのだろうかと考える。
　けれど、ここには自分しかいない。
　自分が導くしかないのだとバンブルビーは思い、エンジンを一度だけ強く吹かした。