破壊されたはずのメガトロンがいることにティスランドの顔は険しくなる。
　報告ではオプティマスによって破壊され、海深く沈められたはずだ。そのメガトロンが復活したということは良くない知らせでしかない。
　混乱するふりをしつつティスランドは辺りの様子を確認する。
　人気のない廃工場、逃げ出せそうな場所をいくつか見つけると敵の動きを意識しながら、サムとミカエラとレオの立ち位置を確認する。
　いくらなんでもメガトロン相手に人間を連れて無事に逃げ切ることは不可能だ。
　そうこのままの状態では。

　「（戻るべきか？）」

彼らを守るために、彼らを連れて逃げるため、人の姿からオートボットになるべきかと考えていた時だ、視界の片隅でスタースクリームの姿を見つける。
　それを合図にティスランドの意識は薄れ始めていく。
　冷静な部分が駄目だと叫ぶが、ストラトスの意識が次第に強くなり始める。
　青い瞳に赤い色が滲み始めるがソレに気づく者は誰も居ない。その場にいる者達の関心は全てサム一人へと向けられているのだ。
　ティスランドとして己の任務を遂行するため必死にストラトスの意識を押さえ込んでいたが、その努力を嘲笑うかのように廃工場の中にスタースクリームの声が響く。

　『虫けらは虫けららしく俺達の役に立てば良いんだよ！！』

その声を聞いた瞬間、ティスランドの意識はプツリと途切れた。そして間髪を入れることなくストラトスの意識が浮上する。
　この耳障りな声を一秒たりとも聞いていたくない、今の声は嫌でも自分の最期の時を思い出させるのだ。



　『まさかお前、自分は特別だとか思っていたのかよ？いつからそんなにも、おめでたい思考になったんだ？らしくないんじゃないのか？』



翼を奪い、空を奪ったのはスタースクリームだ。
　ギラリと赤い瞳がスタースクリームを射貫く。
　それと同時に彼は使い物にならない人の姿を放棄する。この身体では戦えない、ヤツを打ち落とすことが出来ないと叫ぶスパークに従いトランスフォームする。
　ガシャガシャと金属のこすれ合う音が静かな廃工場の中に突然響き、誰もが何事だと言うかのようにティスランドがいた場所へと視線を向ける。
　視線が向けられたのと同時にティスランドはトランスフォームを完了させ、無言のまま右腕をライフルへと変形させると銃口をスタースクリームへと向けた。
　今までいなかったはずの場所に突如現れた真っ白なトランスフォーマーの姿にディセプティコン達は慌てて戦闘体制に入ろうするよりも早くティスランドの銃口が火を噴く。

　『貴様も俺の役に立って消えろ、スタースクリーム！！！』

凄まじい勢いでスタースクリームへと銃弾が次々と放たれる。
　人間には耐えられないほどの大きな発砲音にミカエラとレオが頭を抱えてうずくまる姿にストラトスは気づかない。
　赤い瞳はスタースクリームにのみ向けられているのだ。
　宙を飛翔して銃弾の雨を避けていたスタースクリームは執拗なほど自分を狙う白いオートボットに気づくと、赤い目を不快そうに細めると叫ぶ。

　『ストラトスか！？ッチ・・・いつの間に潜り込んだ！？』

スタースクリームの脳裏に姿を変えたストラトスとの再会した時の恐怖が蘇る。
　応戦しようにも自分の戦いパターン、癖を全て知っているストラトスはそんな余裕を与えず、放たれ続けている銃弾は次第にスタースクリームを追い詰めていく。

　『そんなことも解らないからテメェはいつまで経っても二番手なんだよ！！！』

　『クソッ！！言わせておけば調子に乗りやがって！！！』

　『あの時の台詞をアレンジして返してやるよ・・・おめでたい思考の貴様はここで死ね！！！俺の手に掛かってな！！！』

ダンッと勢いよくコンクリートを蹴ったストラトスはどこから取り出した日本刀でスタースクリームに斬りかかる。
　銃と日本刀による攻撃にスタースクリームが対処出来ず、その翼を切り落とされそうになったときだった。
　突然、背後から凄まじい衝撃が走ったためストラトスは眼前にある壁に衝突する。視界に表示されるエラーに混乱する中、何が起こったのか確認するため後方に目を向ければそこには硝煙の上がるショットガンを手にしたメガトロンが鋭い歯を見せて笑っていた。

　『その戦闘スタイルを見て思い出したぞ・・・貴様はあの時のオートボットか』

メガトロンが一歩踏み出せば地響きと共に大きく地面が揺れ、それが死の宣告のように感じられた。