アリスの執拗な攻撃からティスランドはサム達を守りながら行動をしていた。
　人間に被害を出すことをためらわず、ただ、任務を遂行するかのように攻撃をするアリスに対しティスランドは舌打ちをする。

　「プリテンダーだと思って舐めていたな」

攻撃能力は高くはないと思っていたが、改造でもされたのかアリスの攻撃は予想以上のものだった。
　怯えるサム達を連れたまま逃げ切るのは不可能だと判断したティスランドが辺りを見渡していると一台の車が目にとまる。

　「アレに乗って逃げろ。追撃者は私が引き受ける」

　「そんな・・・君じゃ勝てないよ！！」

　「一緒に逃げようぜ！？」

サムとレオの発言にティスランドは首を左右に振る。

　「無理だな。誰かが足止めしないとアレはずっと追いかけてくる。そういうヤツだ」

　「・・・貴方、随分と詳しいのね」

警戒するかのようなミカエラの言葉にティスランドは何と答えるのが正解なのか考える。
　正体を明かすことは今の時点では出来ない。
　あまりにも人の目が多すぎるのだ。何よりここにはトランスフォームできるほどのスペースがない。

　「私は敵ではない。サム・ウィトウィッキーを守るように命令されているだけだ」

　「誰から？」

　「お前がよく知る人物からだ・・・おしゃべりはこの辺にしておこうか。お客さんのお出ましだ」

土煙の中から現れた金髪美女の姿にティスランドの顔が引きつる。
　銃弾の残りは少なく、予備の弾倉を持ってはいるが無駄撃ちは出来ない。
　コレでどれだけ足止め出来るだろうかと考えながら、自分の背後にいる人間達に向かい話しかけた。

　「私のことを思うのならばさっさと逃げてくれると助かるよ。アンタ達は足手まといだ」

銃も持たず、少しでも傷つけば死んでしまう人間をアリスから守り通すのは厳しい。本来の姿に戻れれば違うのだろうが、それが出来ない今は彼らを逃がすことしかできない自分の不甲斐なさにティスランドが唇を噛みしめていると、ミカエラがサムとレオを説得してその場から去って行く。

　「あら？置いていかれたの？可哀想に」

　「そう思うなら一緒に遊んでくれると嬉しいんだが？」

　「ふふ・・・いいわよ、遊んであげる。ボロボロになったアンタをマスターに差し出すのも悪くないもの」

ニヤリと笑ったアリスのスカートの中から触手が出てくる。
　鋭く尖った尾がティスランドへと向けられ、いつでもその心臓を貫くことが出来ると言うかのようなアリスの笑みにティスランドは持っていた銃を握り直したときだった。
　凄まじい速さで何かが現れたかと思えば、それはアリスへと衝突する。ボンネットでアリスを押さえつけながら電柱に衝突した車をティスランドは何が起こったのか解らないという顔をして見つめる事しか出来ないでいると、車の中からミカエラが下りてくる。

　「私はね、足手まといになるのが嫌いなの」

乱れた髪を掻き上げたミカエラの言葉にティスランドは唖然とした顔を向けることしか出来ずにいた。
　この人間は何を言っているのだ？そう考えているとミカエラはティスランドの手を引いてどこかに向かって歩き出す。
　彼女が向かった先には一台の車があり、その車の中にはサムとレオが乗っていた。

　「一つ、良いか？」

立ち止まったミカエラの視線を真正面から受け止めたティスランドは、座席に座っているサム達を指さすと口を開く。

　「アレはとても情けないな」

　「同感よ」

顔を見合わせた二人は声を出して笑った。