明らかにいらついている女性に対し、レオが何やら話しかけているが女性は聞きたくないと言うかのように顔の前に手をかざす。
　痴話喧嘩だと判断したティスランドは二人に構っている場合では無いと判断する。
　今は一刻も早くサムを保護しなければならない。

　「彼の様子はどうなの？」

小首を傾げてティスランドが問いかけると、レオは女性に向けていた視線をティスランドに向けた。
　突然現れたティスランドに対し、彼は何か言おうと口を動かすが言葉にならない。頬を微かに赤くして自分を見つめてくるレオに対し、ティスランドが怪訝な顔をして答えを求めるかのように見つめていた時だった。

　「貴方もサムの浮気相手？彼なら中でよろしくやっているわよ？なんなら貴方も混ざって一緒に仲良くしてきたら？」

　「どういう意味？」

　「・・・金髪美人とお楽しみ中ってこと！！」

頭にくるわ、と言った女性の発言にティスランドは嫌な予感を抱く。
　脳裏に浮かぶのはアリスの姿だ。
　ここに潜入しているということから何かしら彼女には任務が与えられていたことは確かだ。その任務が解らなかったが、サムの異変とアリスの任務は繋がっているのだと今になって理解をしたティスランドは持っていた授業道具を投げ捨てると扉を蹴破る。

　「ンッーー！！！！」

突然開いた扉に驚きつつも、助けを求めるかのように手を伸ばしているサムの口元には金属の触手が絡みついている。
　サムの上に馬乗りになっているアリスはティスランドの姿を見ると、興が削がれたと言いたげにあからさまに顔をしかめた。

　「悪いな」

吐き捨てるかのようにそう呟いた直後、ティスランドは衣服の下に隠していた銃を取り出すと迷うことなくアリスに向かい発砲した。
　今のティスランドは腕をライフルに変形させることが出来ないだけではなく、重火器の全てを使用する事は出来ない状態だ。
　潜入調査の前に何度かこの状態になり、色々とやってみたのだが人間の時には人間と同じ身体能力しかない為、ハンドガンを密かに持ち歩く事しか出来なかった。
　けれどそのハンドガンはティスランドの為にラチェットとアイアンハンドが色々と試行錯誤して作成した代物で、一般的に出回っているハンドガンと比べれば威力は格段に違う。
　銃弾が命中したアリスがサムの上から吹き飛び、窓カラスを突き破って落下していくのを見たティスランドは呆れたような眼差しをハンドガンへと向けた。

　「あの二人は一体何を考えているんだ・・・・」

この場には居ない人物へと呆れたようにそう告げたティスランドは、コレが人の手に渡れば色々と厄介だと思いながら銃を見つめていた時だ。

　「撃たないで！！撃たないでったら！！！」

頭を抱えてベッドの上で丸くなるサムに近づいたティスランドは怯えているサムを無視し、窓の下にいるだろうアリスを確認するため窓から顔を出す。
　落下場所にアリスの姿はなく、ティスランドはチッと舌打ちをするとサムの腕を掴み、ベッドから無理矢理引きずり下ろす。

　「仕留め損なった」

部屋の外にサムを投げ捨てると、ドアの前にいたレオと女性がサムに近づく。
　廊下は突然の発砲音を聞いた学生達で溢れかえっており、人間達の姿を見たティスランドは顔をしかめると三人に向かい声を掛ける。

　「ここから逃げる。死にたくなければ着いてこい」

　「貴方、一体何者なの？」

　「ティスランド」

せわしなく辺りを見渡しながらティスランドは自分の名を告げる。
　密かにこの近くに来ているだろうバンブルビーに通信を繋ごうとしたが、妨害電波が出されているらしく通信エラーが表示される。
　援軍が見込めない今、サムを守れるのは自分しかいないという状況にティスランドの顔が曇る。サイドスワイプがオプティマスに報告したとしても、彼らが駆けつけるまで時間がかかるのは明らかだ。
　無言のまま歩き出したティスランドに続く形でサム達は移動を開始した。