ティスランドへと下された命令はサムの警護である。
　本来ならば彼に接触し、友人となり、常に身を守れるだろう場所にいるべきなのだ。

　「オプティマスはそれを認めなかった」

与えられた命令の中にはサムと接触はするなというものがあった。
　ティスランドの正体を知ったのならばサムは確実に身構えるだろうというオプティマスの判断だ。故に、同じ大学に通い、たまたま同じ授業を受け、偶然近くの席に座っている人物だという状況を作り出せという命令だったが、それはそれである意味で難しい任務のようにティスランドには感じられた。
　けれど、今日までサムに怪しまれることなく過ごせたのはセイの存在が大きかった。

　「（人間とオートボットの感覚がこれほどまで違うとはな）」

ティスランドが介入すべきと判断したことに関し、セイは幾度となく止めろと進言してきたのだ。
　結果としてその判断は正しいものだったことから、ティスランドはある意味で人間達のやり取りに関して全面的な判断をセイへと任せていた。

　「（全くもって先の事なんて解らないものだなぁ）」

教科書を見ているふりをしつつティスランドは斜め前の席に座っているサムの姿を見つめながらティスランドは授業を聞いているふりをする。。
　授業内容は全くと言って良いほど頭に入ってこない。
　人間だった頃は、セイだった頃の知識からは何を言っているのか解らないない授業内容だが、ストラトスの知識がある今は教師の言っている内容は全てが当たり前の内容であった。

　「（そしてそれが間違えているということも解るなんてな）」

流石に飽きたと思いながらあくびをかみ殺していたときだった。

　「それは間違いだ！！！」

突然、サムが叫んだ言葉に眠気が吹き飛ぶ。
　教室に居る誰もがサムを見つめる中、彼はせわしなく何かをしゃべる。教師や生徒達は何を言っているのだという目を向けるがティスランドは違った。
　サムの口から出てくる内容はストラトスの記憶にある知識と全て一緒だった。それを何故、人間が理解しているのだと疑問を抱いている間にサムは慌てて教室から出て行ってしまう。
　隣にいたルームメイトが慌てて後を追いかけるかのように教室を出て行った後、誰も何も言わない静かな教室の中でティスランドはゆっくりと手を上げる。

　「なにかな？」

　「・・・気分が優れないので私も退出させてもらいます」

教師の言葉を聞くことなくティスランドは教室を出る。
　オプティマスに通信を繋ごうとするが何も反応がなく、恐らく軍上層部との話し合いのため通信を一時的に遮断しているのだとティスランドは判断する。
　誰が他にいるだろうかと考えていると、不意にある機体の姿が思い浮かぶ。
　藁にも縋る気持ちでその機体に通信を繋ぐと、意外にもすぐに彼は通信を受けてくれた。そのことに驚きつつも、顔に笑みが浮かぶのをティスランドは止められなかった。

　「突然すまないな」

　『・・・用件はなんだ？』

　「サム・ウィトウィッキーに変化があった。司令官に通信を繋いだんだが繋がらなかったが軍事会議中か？」

　『あぁ。ジャズとアイアンハイドも一緒に出ている。・・・サムは大丈夫なのか？』

　「現段階では解らない。早急にこちらに来るよう司令官に報告してくれ」

　『わかった』

通信を切ろうとしたティスランドであったが、相手が自分の名を呼んだことに気づく。

　『この任務が終わったら、お前に話したいことが色々とあるんだ』

　「・・・・あぁ、解った。私もお前と話がしたいよ、サイドスワイプ」

サムの部屋の前まで来たティスランドは通信を切断する。
　扉の前にはルームメイトのレオがおり、彼の隣には見慣れない女性がいた。