両手で持っている荷物の重さにティスランドは苛立ちを隠すことはせず、コレの用意をしたラチェットへと心の中で恨み言を吐く。
　通路に溢れている人間は予想不可能な動きを時々するため、先程から何度も肩やら腕やらが衝突しており、ズキズキと鈍い痛みを発しているのだ。
　その痛みに耐えながら目的の部屋へと向かって歩いている時、死角から一人の男子生徒が現れティスランドの右肩に勢いよく衝突した。

　「悪いな」

　「お気になさらず」

衝撃によって後ろに一歩下がったのと同時に、持っていた荷物の中から何かが割れるような嫌な音がした。
　ぶつかってきた男子生徒は隣にいた女子生徒の肩に腕を回しながら、楽しそうに談笑することに夢中のようでティスランドを一瞥すること無く去って行く。

　「人間とは無駄な動きが多すぎる。そもそも、この建物の構造は意味不明だ」

苛立ちを隠すことなくティスランドは呟いた時、自身の中から誰かが笑うような感覚を抱く。
　それは人であったセイだとすぐに理解したティスランドは、こういった任務ならば人間だった彼女の方が適任かもしれないな、と密かに思うと助力を得られないだろうかと考えていた時、在学中に使う予定になっている部屋に到着した。
　部屋の中に入ると同室になる予定の人間はまだ到着していないらしく、無人状態となっていた為、これ幸いと言うかのようにティスランドは持っていた箱を机の上に置いた。
　ベッドは2つあるが、こういうのは早い者勝ちだろうと判断すると窓側のベッドの上に腰掛ける。

　「『大学に潜入し、サム・ウィトウィッキーを警護せよ』か・・・何故、彼を守る必要が？」

自分に任務を与えてきたオプティマスの言葉の意味を考える。
　サム・ウィトウィッキーという人間のデータは知っている。
　キューブを手に入れる手がかりを所持していた人間で、最終的にメガトロンを破壊する事になった人間だ。
　バンブルビーが彼の警護に就いていたとのことだが、ある理由があってその任務を続けることが不可能になった為、彼の代わりにティスランドが秘密裏に護衛しろということだ。

　「ディセプティコンが狙っているのか？だが、何故？」

サムが狙われたのはキューブの鍵である眼鏡持っていたからだ。
　肝心のキューブが失われた今、彼を狙う必要は無いはずだと考えていると部屋のドアが開かれ一人の女生徒が入ってくる。

　「あら」

　「・・・・初めまして」

互いに相手の顔を凝視する。
　その瞬間、相手がなんなのか瞬時に理解した。ここで息の根を止めることは簡単だが、外にいるだろう多くの人間達を守り通すことは難しく、ここは大人しくするのが得策だとティスランドは判断する。
　なにより敵が何故ここに来たのかという理由も解らないため、敵の狙いが解ってから排除した方が自分達の為になると結論づけたときだ。
　
　「へぇ？オートボットにも珍しいヤツがいるのね。見たところ私と同じって事かしら？」

　「プリテンダー風情と一緒にしてもらっては困る」

　「言うじゃない」

　「・・・何が狙いだ？」

　「教えるわけなんてないでしょ？私には私の目的がある。邪魔をするなら容赦しないわよ、オートボット」

目の前に現れたプリテンダーは金髪の髪を掻き上げると舌なめずりをした。
　獲物として見られているのは明らかだ。
　敵はティスランドが戦闘能力が高くないと判断している。

　「まぁ短い間だけどよろしくね？私はアリス」

　「ティスランド」

　「聞いたことない名前ね」

自身のデータを探してみるがそれらしい名前がヒットしなかったらしく、アリスは不機嫌そうに目を細める。
　まずは相手のデータを集めることを共に選んだ二人の奇妙な生活がこうして始まった。