格納庫に来たティスランドは空を自由に飛ぶことの出来るそれらを目を輝かせて見つめていた。

　「良いな、お前達は空を飛べるなんて・・・私は惨めにもこの姿だ」

戦うことすら満足に出来ない人の姿になってしまった己を嘆くかのようにティスランドは微笑んだ。
　最新式のものから少し前までの型をした戦闘機を順に見ながら奥へ奥へと進んでいく。　楽しい時間はあっという間で、名残惜しい気持ちを抱きながら格納庫を出たティスランドは、少し離れたところに建てられている建物を見つける。
　何だと思いその場所に近づくと、そこには他国の戦闘機が並べられていた。

　「へぇ」

国が違えば特色も違うのだなと妙に感心しながらティスランドは格納庫の中を歩く。
　少し離れたところでここの管理人をしているらしい軍人が視線を向けてくるが、それが気にならないほどティスランドは戦闘機に夢中になっていた。
　無言のまま歩みを進めていたティスランドはそこにあった戦闘機を見て言葉を失う。
　ストラトスだった時とよく似た姿の戦闘機にティスランドは無意識の内に手を伸ばす。
　懐かしむかのようにそっと外装を指先で撫でたときだった。

　「ッ！？」

指先に痺れにも似た痛みが走り、慌てて手を引くが全てが遅かった。
　急速に組み替えられていく自身の体、何が起っているのだと理解が出来ないうちにティスランドの体はトランスフォームし終わる。
　信じられない面持ちのままティスランドは自身の状態を確認した。
　
　『まさか』

恐る恐る、両翼を意識してみるとそこにはかつて自分が慣れ親しんだ感覚があった。
　それだけでティスランドはスパークが震えた。
　正確にはティスランドの中にいるストラトスだ。
　今の自分の姿を理解したティスランドは衝動に任せるかのように滑走路へと向かって移動を開始する。
　格納庫を管理をしていた軍人はあまりにも突然の出来事に絶句していたが、ティスランドが滑走路へ移動していることに気づくと我を取り戻し、酷く慌てた様子で両手を振りながら必死に思い止まるように言葉を口にする。

　「待て待て待て！！落ち着け、落ち着くんだ！！！」

　『それはできない』

高揚するスパークを止められない。
　滑走路に躍り出たティスランドはエンジンをゆっくりと動かす。
　大丈夫だろうか、久方ぶりの飛行は問題ないだろうか、そんな疑問を抱きながらティスランドは地面から飛び立つ。
　ふわりと体を包み込む浮遊感、風を切る感触に叫びたくなるのを必死に堪える。
　急上昇をし旋回をすると視界を埋め尽くすのは青い色だ。

　『空だ』

風を切り裂きながらティスランドは上空を飛び回る。
　懐かしい感覚に今ただ、酔いしれていたい。そう思いながら好き勝手に飛行をしていると、強引に通信回線を接続される感覚がした。

　『ティスランド。すぐに帰還してくれ』

帰還、その言葉に心が重くなっていく。
　折角帰ってきたというのに、３０分も経たないうちに地上へと戻らなければならないのか。そんな不満を抱くが上官からの命令に逆らうことなくティスランドは高度を下げる。
　見えてきた滑走路に見事着地をし、勢いを止めることなく体を再度作り替える。
　慣れ親しんだ感覚を思い出しながら体をトランスフォームさせれば、見慣れた白いボディと金属の掌が見え、そのことに少しだけホッとした。
　
　『ティスランド』

いつもよりも少し低い声で名を呼んだオプティマスに対し、ティスランドはゆっくりと視線を向ければ、見慣れた高さにある彼の顔を見て安心した。

　『・・・無事に戻れました』

　『そうだな。それは何よりだ。・・・だが、新たな問題も発生してしまった』

疲れたようなオプティマスの音声にティスランドは申し訳なさを感じつつも沈黙することしか出来なかった。