人として生活する事になったティスランドに対し、レノックス達は良心的に接してくれていた。解らない事があれば何でも聞いてくれと言った彼らは少し離れたところから常にティスランドを見守っており、少しでも考えたり迷ったりする姿を見つければ我先にやって来るのだ。

　「・・・・レノックス少佐」

　「いや、頭では解っているんだ。だがな・・・どうしてもお前さんを見ているとな、こう、親心というのか、それによく似た感情が生まれてな」

　「私はそんなに子供に見えるのか？」

　「少なくとも俺には成人前だな」

頭を撫でながら言われた言葉にティスランドは疲れたようにため息を吐くと、未だ自分の頭を撫でているレノックスの手をやんわりと外す。
　名残惜しそうなその姿をティスランドは見ないように視線を逸らすと歩き出す。

　「どこに行く？」

　「・・・散歩。基地からは出ない」

常について回る人の視線に対し、ティスランドは限界を迎えつつあった。
　オートボットの格納庫に行けば彼らはいつもとは違う反応をする。同じ仲間ではなく、人間に対して接してくるのだ。
　人間は幼子に接するかのような態度で対応してくる。

　「そういや前にお前が言っていたお願いだったが上から了承が得られたぞ？気分転換に見てきたらどうだ？」

レノックスの言葉にティスランドは弾かれたように振り返る。
　本当か、と言いたげな様子で顔を輝かせたティスランドに対し、レノックスは驚いたように瞬きをした後、本当だと言うかのように頷きその場所を伝えるとティスランドは小走りでその場から去って行った。

　「レノックス」

現れたエップスに対しレノックスは片手を上げて挨拶をする。

　「嬢ちゃんはどうした？」

　「格納庫に行った」

　「あぁ、例の格納庫か。珍しいよなぁ戦闘機が見たいなんて」
　
　「確かに。だが時々、空を見ている姿を見かける」

オートボットだった時も何かに腰掛けたり、または立ち尽くしたりして空を見上げている彼女の姿を何度かレノックスは見たことがあった。
　空に恋をしているかのようにジッと空を見上げるティスランドの姿を見る度、まるで自らの居場所は空にあるのだと言うかのような顔をしていたが、その目が空から逸らされるときその目に浮かぶのは落胆だ。
　青い目に滲む感情を見る度にレノックスは言いようのない感情を抱いてた。
　
　「まぁあの姿になってから地味にストレスが溜まっていたようだし、気分転換になれば良いんだが・・・・」

　「ラチェットの研究もあまり進んでいないらしいな」

　「前途多難ってやつか。せめて原因が解明されれば少しは楽になれるんだろうが、コレばっかりは俺達は何も出来ないから、ラチェットに期待するしかない」

そのまま二人は今後の方針やら、作戦やらを話し合っていたときだった。
　一人の部下が青ざめた顔をして二人の元に駆け込んできたのだ。何事かと身構えた二人に対し、その部下は引きつった声で告げた。

　「戦闘機の格納庫を見に来たオートボットが、戦闘機を突然スキャンして、そのまま空へと飛行してしまいました！！！」

　「「・・・・はぁ！？」」

信じられないという顔をして同時に声を出した二人の元に、ビーグルモードのオプティマスが近づいてきた。
　これはただ事ではない、そう思いながら二人は慌てて滑走路に向かって走り出した。