ラチェットの実験は中止になったが、どうしても今のデータだけは欲しいと懇願してきた彼に対しオプティマスは渋々という形で了承をした。
　首に刺さったコードにティスランドは顔をしかめる。
　自分の頭の中で何かがかき混ぜられているかのような不快感が襲ってくる。トランスフォーマーの時にはなかった状態に何度も瞬きをしていると、ラチェットが問いかけてきた。

　『違和感があるのかね？』

　「頭がかき混ぜられているような気がする。あと、コードが刺さったところが痛い」

そっと首筋に触れてみると赤黒い液体が指先を汚した。
　臭いをかいでみると鉄とオイルが混ざったような臭いがした為、ティスランドはそれぞれの特性がこの身体にはあるのだなぁと一人で感心していると目の前に何かが差し出される。

　『その液体をこの中に入れてくれ』

　「了解した」

指先に着いていた液体を容器の中に入れる。
　ラチェットがその容器を嬉しそうに手にしたのを見たティスランドはこの軍医がこういう態度をするのは珍しいなと思っていると、首からコードがそっと抜かれた。
　
　『必要な分は採取させてもらった。協力感謝する。もしかしたら今後も何かしらデータや細胞の一部を提供して貰うかもしれない』

　「私に出来ることなら、」

　『はいはーい！難しい話はその辺で終了なー？ティスランドはこっちに来い。レノックスがお前が過ごす施設のことで話があるそうだ』

　「私が過ごす施設？何故そんな場所の話を？私はここに居ては駄目なのか？」

当然のことのようにティスランドが口にした疑問の言葉にジャズは動きを止める。
　この格納庫はオートボット用に作られているため、かなりの大きさがあるので人間には少々不向きだと言える。
　オートボットとしての矜持があるらしいこの新人をどうやって説得すべきかとジャズは考え、救いを求めるかのようにオプティマスを見ると彼は静かに首を横に振る。
　ここに居ることを認めないという意思にジャズは排気を一つすると説明し始めた。

　『今のお前にここでの生活は不便だろう？』

　「多少の問題はありますが、ある程度の事はできます」

ムッとした顔をして呟いたティスランドの姿にジャズはおや？と思う。
　オートボットだったときはこんな風に思考が顔にでてくるような事は無かった。人間の時には意外と顔に出るのだなぁ、と妙に感心しながらティスランドを見ていると恨めしそうな目と視線が合う。

　『元に戻るまでは人間の施設で生活したほうが良い』

　「・・・ここに来ることは構わないだろうか？」

　『そりゃ勿論大歓迎だ！』

　「私は、どうやったら戻れるのだろうか」

落胆した様子で自身の両手を見下ろすティスランドの姿にその場に居るオートボット達は沈黙をする。
　人になったオートボットなど今まで見たことがなかった。
　故に、いつ戻れるのかという的確な指示など出せるわけがない。

　『お前なら戻れるさ』

　「・・・・そう、ですね」

ぎこちなく微笑んで返答をしたティスランドは下ろしていた視線を上げると、ジャズのバイザーをジッと見つめる。
　
　「感謝します。将校殿」

　『ジャズだって』

　「ジャズ！そろそろ良いか？部屋の準備が終わったらしい」

足下からレノックスがティスランドを呼ぶ声が聞こえてくる。
　少し名残惜しいなと思いながらジャズはティスランドを地面に下ろした。