そこにあったのは見慣れた肌色の皮膚だった。
　金属で出来た真っ白なボディではない。
　恐る恐る、自分の肌をあちこち触れてみる。
　足、腕、腹部、肩、顔、を触れてみると紛れもなく人の肌であった。
　
　「何が起った？」

混乱する思考の中でティスランドはアイアンハイドを見上げる。
　アイアンハイドもまた、何が起ったのか解らないという顔をしてフリーズをしていた。沈黙する二人の間に割り込んできたのはラチェットで、彼はティスランドを見ると驚いたように青いカメラをカシャリと動かした後、確認するかのようにスキャンをした。

　『ティスランド、で間違いないね？』

　「そうだ。私はティスランドだ」

　『何故・・・人間になっている？』

　「それは私が聞きたい」

訳が分らない。
　そう言うかのようにため息を吐いたティスランドに対しラチェットも答えが見つからないらしく、沈黙をしたままだった。

　『理由は何であれそのままというのも駄目だろう。人間は我々とは違うからな』

　「どういう意味だ？」

　『・・・人間は衣服をまとうだろう？』

ピッと指を指したラチェットの言葉にティスランドは自分の体を見下ろし、そして言葉を失う。
　一糸まとわぬ自分の姿に気づいた瞬間、ティスランドはその場に座り込むとラチェット達の視線から身を守るかのように縮こまる。
　
　『アイアンハイド、レノックスに頼んで何か衣服をもらってきてくれないか？』

　『あ、あぁ』

何が起ったのか解らないままフリーズしていたアイアンハイドに対し、ラチェットは指示を出すと彼は大人しく従う。レノックスに通信をしながら去って行くアイアンハイドを見送った後、ティスランドはゆるく息を吐き出す。
　殺されるかと思ったのだ。
　あのままアイアンハイドのキャノン砲を受け、ストラトスの時と同じようにオートボットの手によってスパークを打ち抜かれるとメモリーが必死に訴えてきたのだ。
　
　『落ち着いたようだな』

　「・・・すみません」

　『別に構わないよ。ただ、少しばかり傷ついた』

怯えられたことに対し責めるかのようなラチェットの言葉にティスランドは首を動かし、ラチェットを見上げるとジッと自分を観察するかのようなラチェットの目と視線が合う。
　
　『スキャンしたときに確認した識別コードはティスランドのものだった・・・ディセプティコンの中にはプリテンダーと呼ばれる人型の存在がいる。彼らはトランスフォームすることが出来たとしてもこの状態になることは出来ない』

自分のボディを軽く叩きながらラチェットは説明をする。
　
　『よって君はプリテンダーではない』

　「私は、オートボット・・・なのだろうか？」

　『少なくとも私はそう認識していた』

ラチェットの言葉が過去形であることにティスランドは寂しそうに微笑んだ。
　人間の姿をした今の自分は彼にとってオートボットではないらしい。
　ラチェットはティスランドからの問いかけに対して偽ることをしなかった。それはある意味で彼らしい正直な言葉にティスランドがひっそりと感謝していると、毛布を持ったレノックスとアイアンハイドが現れる。
　レノックスはティスランドを見ると言葉を失ったかのように立ちすくんでいたが、ティスランドがクシュンッとくしゃみを一つすると慌てて持っていた毛布を頭から掛けてくれた。