格納庫に一台の車が疲れたような雰囲気で停車している。
　白い車体には傷一つ無く、この国では珍しい日本車であるソレは先日、新たにオートボットの仲間になったティスランドだ。
　そんな彼女の前には二人の軍人が困った顔をして立っていた。

　「ティスランド」

レノックスの呼びかけに対し、ティスランドは何の反応も示さない。
　いつもならば何かしら反応があるするはずのなのにそれが無いという事の意味を理解したレノックスはそれだけティスランドの機嫌が悪いのだと悟るとレノックスは隣に立っているエップスを一瞬だけ睨み付けた後、心底申し訳ないと言うかのようなため息を一つだけこぼす。

　「・・・すまなかったな」

一歩近づいたレノックスはティスランドのボディをそっと撫でた。
　労るかのようなその仕草にティスランドは一度だけヘッドライトを点灯させる。しかし、動きはそれだけで音声を出すことはしない。
　ティスランドの行う無言の抗議に対し、レノックスが困ったように頭を掻いた時だ。
　
　『レノックス少佐』

　「どうした？」

反応してくれたことが嬉しかったらしいレノックスが笑みを浮かべる。
　その笑みを見つめながらティスランドはためらいがちに声を出す。

　『仕方ないことです。そもそも、私が日本車をスキャンしたのが原因なのですから。大人しくこの国の車をスキャンしておけばこんな問題にはならなかった』

　「どの車をスキャンするのかはお前達の自由だろ？調子に乗った俺達に今回の事は原因がある。本当にすまなかったと思っている」

ティスランドであった前が日本人だったせいなのか、ティスランドがスキャンしたのは日本車で、よりによもって高級車の部類に入る車種だった。
　そのもの珍しさからＮＥＳＴの軍人達が次々やってきては試乗をした。ティスランドも最初こそ快く彼らの申し出を受け入れていたのだが、彼らはティスランドが友好的だと判断すると時間を見つけてはやって来た。
　休む時間も無く、自身の今後のことを考えることもできずにいたティスランドはある日突然、何の前触れもなく反応も示さなくなったのだ。
　報告を受けたレノックスがエップスを連れて格納庫に居るティスランドの前に来たときには、すでにティスランドは完全にストライキを起こしており誰の言葉にも反応を示さなくなっていた。
　
　「俺からも謝る。悪かったな、ティスランド」

　『貴方の言葉は信用出来ない、エップス軍曹。口ではいつもそうやって謝っておきながら貴方が一番私を良いように使っていたではないか』

　「あ、いや・・・それはなぁ？」

　『買い物に行くやら、ナンパに行くやらで私を足に使っていたのは貴方だろう？それを見た他の軍人達が私を私用車として扱い始めた』

まさかの報告にエップスの顔から血の気が引く。
　チラリと隣に居る親友兼上官を見てみると、彼は明らかに怒っていた。

　「・・・俺は忠告していたはずだぞ、エップス」

　「だって考えてみろよ？日本車だぞ？高級車だぞ？ティスランドで移動すると周りの目が良い感じに向けられて調子に乗っちまうのは仕方ねぇだろッ！？」

　「成る程。それでお前等は次々とティスランドに乗ってナンパはするわ、デートの足に使うわ、楽しい楽しいドライブに出かけていたって訳か」

呆れてものが言えないと言うかのようにレノックスは自身の眉間に手を添える。
　その姿を見て苦労しているなとティスランドはひっそりとレノックスに同情していた。

　「出来るだけ早くお前さんも任務に同行出来るようにオプティマスに頼んでおく。そうしたら、こんな問題から解放されるだろ？」

　『それは私とオートボットとの問題だ。レノックス少佐には関係がないことだろう』

他のオートボット達はディセプティコンの残党狩りに出ている。
　バンブルビーのみ、サム・ウィトウィッキーの元に行っているのだが、他のオートボット達はＮＥＳＴ基地に居るようになっているのだ。
　生まれたてという事もあってかティスランドは慣れるまでの間、大人しく基地で待機しているようにと命令が下されている。
　だが、本当のところはそれだけではないことくらいティスランドも理解していた。