サムにとって幸運だったのは今のストラトスが拳銃を所有していなかった事だ。
　それこそ武器を1つでも持っていたのならばストラトスは迷うこと無くサムへと攻撃していた。
　自らの武装が全くないことに対し、チッと舌打ちをしたストラトスはサウンドウェーブへと視線を向けると、サムを指さしながら問う。

　「『サウンドウェーブ。この虫けらは何だ？ってかなんで俺自身も虫けらになっている？ましてや女になるなんて可笑しいだろうが』」

　『言っただろう？潜入調査だと。人間の男共を籠絡するには女の姿をするのが一番だからな。・・・その人間の姿はお前が色々と利用し、最終的に殺された哀れな犠牲者の中から俺がランダムに選んだものだ。まぁあまり気にするな』

　「『そうかい。女の姿はアンタの趣味って事だな・・・作戦ってのがどんなものだったのかは忘れたが、俺に作戦を命じたって事だからさぞかし面白い計画だったんだろうな。相変わらず性格が悪すぎて惚れ惚れするぜ』」

　『ストラトス。お前のデータ破壊はまだ完全に修復されてはいない。故に俺の協力者である人間の元で少しの間待機をしておけ。時期が来たらお前にも改めて動いてもらわねばならない』

　「『はいはい。全く・・・俺の上官様ってのは俺の扱いがひでぇよ』」

口では文句を言っているのだがその顔に浮かぶのは一刻も早く敵を屠りたいという感情である事くらいサウンドウェーブは見抜いており、それでこそストラトスなのだと思うと楽しげに赤い目を細めた時だった。

　「ティスランド」

　「『・・・オイ、虫けら。俺の名前はストラトスだ。いい加減覚えろ。二度と違う名前で呼ぶな』」

　「いいや違う。君はティスランドだ！オプティマスやビーから君の事は色々と聞いているから知っているし、僕とだって色々な事を話したから知っている！！」

先程蹴られた脇腹を押さえながら立ち上がったサムは痛みで顔を歪めながらも、必死に説得することを試みる。
　ここで諦めてしまえばきっと自分の知っているティスランドは消えてしまうと何故か思ってしまった。
　一歩足を踏み出せばズキズキと脇腹が痛んだが、その痛みを無視してサムはストラトスの元へと向かうと、ストラトスの肩を掴み必死に思い出すように説得し続けていたときだった。

　「『サウンドウェーブ』」

顔から表情を消したティスランドだったが、赤い目にだけ強い感情が浮かんでいた。
　その目と視線が合ったサムは自分はここで殺されると悟ってしまう。

　「『この虫けら殺して良いか？』」

　『駄目だ。ソレにはもう少し働いて貰う予定だからな』

　「『なら腕か脚を一本くらい落とすのは？』」

　『駄目だ』

サウンドウェーブがそう簡単に意見を変える事はしないのだとストラトスは知っていた為、渋々という顔をして殺意を消すと自分の肩を未だに掴んだままのサムを突き飛ばす。

　「『いい加減この姿から元の姿に戻っても良いか？』」

　『あぁ。勿論だ』

上官の許可を得られたストラトスの身体は急速に組み替えられていく、戦闘機に一瞬だけ姿を変えた後、サウンドウェーブと同じくロボットの姿にトランスフォームをしたのだがその顔が訝しむかのように歪む。

　『どうした？』

　『この姿は何だ？』

自身の両手を信じられないと言うかのような目をして見つめながらストラトスは呟く。
　記憶にある自分の視界は今よりももっと高かった。
　何より航空機として自らが何よりも誇るべき翼があったはずなのにソレは今の姿にはない。
　ボディの色も敵に狙ってくれと言うかのような色ではなかった。
　一体自分の身に何が起こっているのだ？と思った瞬間、視界の片隅に見慣れぬフォルダが表示される。