サムと共にカーリーの自宅へと向かって移動をする車内の中で会話は全くない。
　それぞれが自らが抱える事情によって手一杯になっており、他人の事にまで手が回らないというのが現状だった。
　道路の渋滞に巻き込まれることがないまま、無事にカーリー宅へと到着したのと同時にサムはバンブルビーから飛び出していく。

　『”そんなッ！！””私の赤ちゃんが・・・・”』

　「サムにはサムの事情があるだろうさ」
　
　『”黙ってろ！””このッ””泥棒猫！！”』

　「了解」

サムが去ってしまったことが悲しくて、そして酷くご立腹らしいバンブルビーの発言に対しティスランドは肩をすくめると口を噤む。
　こうなったバンブルビーは色々と面倒なため、黙ってやり過ごすのが一番だとアイアンハイドがぼやいていたことを思い出す。

　「（貴方はもう・・・いないのだな）」

もっと沢山のことをアイアンハイドから学びたかったし、もっと沢山の事を語り合いたかったと思いながらティスランドが外の景色を見ていたときだ。
　酷く慌てた様子でサムがカーリーのアパートから出てくると問答無用でバンブルビーの中に乗り込む。

　「ビー！今すぐこの場所に向かってくれ！！」

怒りを押し殺しながらサムが告げた場所。
　その場所を密かに確認したティスランドはその敷地を所有している者のデータを入手すると、その人物はカーリーの上司であり、今住んでいる家を提供してくれている者だった。

　「サム。カーリーは上司の開くパーティーに参加しているだけではないのか？」

カーリーの上司、ディラン宅で開かれているのは知り合いを招いたパーティーで、誰もが和気藹々とした顔をしてその場の雰囲気を楽しんでいて、サムが危惧するような状況では無いことを監視カメラのデータで確認したティスランドが告げるが、サムはブンブンと大きく頭を振りながらその意見を否定する。

　「アイツはずっと前からカーリーにちょっかいを出していたんだッ！！今回だってきっと色々と仕掛けてくるはずだ！！全く・・・嫌になるよ！！」

　「そうか」

怒りながらハンドルを握っているサムの姿を見つめながらティスランドは自分のスパークが酷くざわつくような感覚を感じ取っていた。
　まるでこれから向かう場所が自分にとって良くはない場所だと、今すぐその場所から離れろ、というかのような感覚にティスランドはそんなわけなど無いのだと必死に自分に言い聞かせていた時だ。
　目的地へと到着するのと同時にサムが出て行く。
　完全に頭に血が上っているサムの後ろ姿を見たティスランドは呆れたようにため息を吐くと、バンブルビーから降りてサムを追いかける。

　「サム。一度深呼吸をした方が良いな」

　「してるよ！！」

　「いや・・・してないだろ」

怒りで顔を真っ赤に染めているサムの返答にこれは止めるのに少しばかり骨が折れそうだなぁと密かにティスランドが考えていると、ディラン宅の玄関へと２人は到着する。
　守衛らしい男は２人の姿を見ると中に進めと言うかのように道を譲った為、ティスランドは目を鋭く細めるとバンブルビーへと通信を繋ごうとしたが聞こえてくるのはノイズ音ばかりだったことに自分達が罠に掛かったことを今になって気づく。

　「・・・誰がいるのやら」

いざとなればトランスフォームをしてサムとカーリーを連れて逃げようと思いながらティスランドは豪華絢爛な建物へと足を踏み入れた。