少しばかり弱気になった気持ちを消すかのようにゆっくりと深呼吸をしたティスランドは、難しそうな顔をして運転席に座っているサムへと視線を向けながら話しかけた。

　「サム、成果を得られたようで何よりだ」

　「その口ぶりだとさ、君・・・もしかしてこうなること薄々解ってた？」

　「なんとなく。けれどそれは私の憶測でしかなかったからな。あまりにも情報が不足していたが・・・・今日のあのロシア宇宙飛行士から話を聞けた事で全ての辻褄があった。ディセプティコン達の狙いがセンチネル・プライムで、彼の持つ物を利用する気である事は少しばかり意外だったがな」

淡々とした声でサムに対して返答したティスランドだったが、今言った言葉に対して少しばかりの違和感を感じ取っていた。
　あまりにも全てのピースが綺麗にはまりすぎている。
　一つ、ピースが埋められる度に自分達の首が少しずつ絞められていっているかのような気がしてならない。
　まるで誰かの掌の上で踊らされているような気がティスランドにはしていた。

　「（ダンスを終えた道化を待つのは死なんてのは勘弁願いたいな）」

誰がこの騒動の裏で糸を握っているのかは現時点では解らない。
　疑わしい者が多すぎソレに対抗できる者があまりにも少なすぎるのだ。

　「（こんな時・・・私でなくてストラトスならばどうする？）」

時には味方を疑うという非情な選択すら迷う事すら選び取れるストラトスならば、こんな後手後手の結果にはなってはいないことくらいティスランドとて理解している。
　けれどその肝心なストラトスは全くと言って良い程反応してはくれない。
　以前ならば何かしら反応し、場合によっては強制的に身体の主導権を握っていたはずの存在は今はまるで眠りに落ちてしまっているかのように沈黙していた。
　かつてない事に対しティスランドは嫌な予感を抱く。

　「（この予感がただの杞憂でしかなくて、外れてくれれば良い）」

それが叶わぬ願いである事くらいティスランドは理解している。
　自分達は３人揃っていることで意味を成しているのだから、一つでも欠ければ何らかの障害が起きる事くらい認識しているのだ。

　「（それに消えるのならば・・・）」

何も出来ない、何もかも不足しているティスランドだろうと思った時だ。
　サイドミラー越しに凄まじい勢いでこちらに近づいてくる車の姿に気づいたティスランドは身を捩り、背後へと視線を向ければ進行の邪魔となる車を吹き飛ばしながらこちらに迫ってきている３台の車を肉眼で確認する。

　「おい・・・アレはマズイだろう？」

引きつった声でティスランドが呟いた直後、バンブルビーが凄まじい速さで加速する。

　『”目標捕捉”』

　「センチネル・プライムか！？」

背後へと視線を向けていたティスランドはバンブルビーの声を聞くのと同時に前へと視線を向けると、この国では既に見慣れた消防車が走行していた。
　微かに感じるエネルゴン反応にティスランドはチッと舌打ちをする。

　「最悪のタイミングだな。バンブルビー・・・センチネルを守りつつこのまま逃げ切れるか？」

　『”無理だな”』

　「そうかい。なんとも絶望する返答をありがとう！！！」

やけくそのような声でティスランドがそう答えた直後、追跡者達が一斉にトランスフォームをする。
　彼等は邪魔となる一般車を踏みつぶしたり、はじき飛ばしたりしてこちらに猛追してきている姿に気づいたティスランドはチッと舌打ちをするとバンブルビーへと鋭い声で話しかけた。

　「バンブルビーッ！レノックス大佐に通信を繋ぎ、大至急センチネルへの救援と一般人に被害がこれ以上出ないように避難命令と道路を封鎖するよう伝えてくれ！！」

　『”がってん承知！！”』

一寸遅れてバンブルビーがレノックスへの通信を繋ぐ音が車内に響く。
　どれくらいの間、自分達がセンチネルを守れるのかは解らないが今居る者達だけで任務を遂行しなければならないのだと思えば、言いようのない緊張感が全身を支配した。