未だに少し痛む肩を擦りながらサムはティスランドを見つめていた。
　ティスランドの目は見慣れた青い色をしている。
　けれどその青は微かに発光しているかのような淡い光を放っていて、それは人と似たような構造をしていても本質は違う物なのだということを何よりも雄弁に語っている。

　「（僕の見間違いだった？）」

大学で初めて出会い、そして共にエジプトで旅をしている間、ティスランドの目は今と同じ青だった。
　けれど様子が可笑しかった時のティスランドの目は赤い色をしていた。
　その色を見ていると自分の中にあるオールスパークの力の残滓が何かを訴えるかのような感覚を感じ取った。
　このままではティスランドが自分の知っているティスランドでは無くなってしまうかのような、見知らぬ何かに変異してしまうかのような気がしたサムは慌ててティスランドの肩を掴み揺さぶったのだ。焦っていたからか自分で考えているよりも力を込めてしまっていたらしく、それを敵対行動と判断したティスランドに拘束されてしまったのは、サムにとっては予想外の展開だった。

　「（・・・そういや、エジプトで助けてくれたときの目の色は赤だった）」

ティスランドからは想像出来ないような乱暴な口調、そして態度であった事をサムは思い出す。
　てっきりティスランドはロボットモードの時は赤い目をしているのだとばかり思っていたのだが、その考えが間違っていることに今になって気づく。
　そもそもオートボット達の目の色は青だ。
　赤を持つ者達はディセプティコンではないか、そう思ったサムは今自分が抱いた考えは間違いであると必死に言い聞かせる。
　
　「（そうだよ。ティスランドが僕らを裏切るわけなんて無い）」

人間の姿になって自分を守ってくれ、自分を守り酷い怪我を負ったとバンブルビーが言っていた事をサムは思い出すと、今自分が思ったことは最低な考えだと必死に言い聞かせる。
　けれど自分の中に残っているオールスパークの一部はティスランドの裏切りを否定しないのだ。

　「サム？なんだ？人の顔をジッと見つめてきて・・・」

何か顔に着いているのか？と良いながら自分の顔をペタペタと触るティスランドは、サムの知っているティスランドだ。
　その姿に安心しながらサムは言葉を返すとティスランドから離れる。

　「僕は・・・」

どうすべきなのだろうか？
　オプティマスにティスランドの異変を伝えた方が良いのかもしれないが、下手に自分が動くことによってティスランドに対しオートボット達が疑念を抱く可能性も否定できない。
　ティスランドがここに来た理由、それはジャズと喧嘩をしてその罰でここに来ているのだから下手なことを報告すべきでは無いかもしれない、最終的にサムはそう判断したときだ。
　ポケットに突っ込んでいる携帯がその存在を主張するかのように一度だけ震えた。

　「・・・あ」

携帯を手に持ったサムはティスランドが以前、携帯に何かしていたことを思い出すと携帯を操作する。
　すると見覚えの無いフォルダがある事に気づき、それを開こうとしてみるが厳重なロックが掛けられているらしくサムにとって完全にお手上げな状態だ。
　恐らくオートボット達ならばこのロックを解除するなんて事はいとも簡単にできることだろう。

　「（ビーに相談した方が良いかもしれないな）」

オプティマスには言えないようなティスランドの異変も愛車であり気心の知れた相棒ならば教えても良いかもしれない。
　場合によっては携帯にある身に覚えの無いフォルダのロックを解除して貰うのも一つの手だ。
　そうと決めればサムは夜にでもこっそりバンブルビーに相談しようと決める。
　方針が決まっただけで気持ちが幾ばくか楽になった時だ。
　手にしていた携帯が震えたためディスプレイを見ると、シモンズの名前が表示されていることにサムは嫌な予感を抱きつつも通話ボタンを押して携帯を耳に添えた。