明るい黄色が最初の印象だ。次に黒いストライプ、そしてバックミラーに下げられているミラーボールとミツバチのマスコット。
　全身でこれでもかと言うほどミツバチのイメージを訴えてくるその車をミソラはまじまじと見つめる。
　
　「随分と気合いの入った車を買ってもらったんだね」

ロンは中古の車を買うとジュディに言っていた。
　その宣言通りサムは中古車を買ってもらったらしく、所々錆びてはいるがその辺は仕方ないことだろうなと思いながらミソラが車を見ていると口笛が聞こえてきた。
　音のする方を見ると車の鍵を持ったサムが家の中から現れる。

　「おかえり」

　「ただいま、サム。無事に気に入った車買えたんだね。おめでとう」

　「いや・・・うん、まぁそんなとこかな」

妙に歯切れの悪いサムに対し何かあったのだろうかと思ったミソラであったが、恐らくロンと口論になったのだろうなと判断し触れないでおこうと決める。

　「なんていう車なの？」

　「カマロだよ。シボレー・カマロ」

車の名前を聞いてもミソラにはよく分からず、とりあえず相打ちをしながら車を見つめる。
　それにしても見事な黄色だなと思いながらも、これからサムと長い付き合いになるのかも知れない車に向かい声をかけた。

　「よろしくね、カマロさん？」

所々錆びているボンネットを軽く叩いた瞬間、掌から微かに痛みが走った。
　静電気にも似た痛みにミソラは慌て手を放す。

　「冬でも無いのに乾燥しているのかな？」

思わず手を押さえたミソラと同時にカマロが揺れ出す。
　ガクガクと上下に揺れるその姿は不気味で、一向に止まることの無いカマロに対し、ミソラとサムは絶句する。
　最初に我に返ったのは車の持ち主のサムだ。

　「ミソラ！！ちょっと！なにしてくれてんの！？これ、いくらしたと思っているのさ！！」

　「えぇ！？私が原因なの！？触っただけだよ？ちょっと静電気が発生しただけだよ！？」

　「静電気！？それだよ！！もう！！古い車なんだから繊細なんだよ！！壊れたらどうしてくれるのさ！！明日、ミカエラを誘おうと思ったのに！！！」

さらりと爆弾発言をしたサムの言葉をミソラは聞き流す。
　今はこの不気味に動くカマロを何とかしなければならない。再度触るべきだろうかと手を伸ばすと、サムから凄まじい視線を向けられる。
　どうしたものかと考えている間に、カマロは何事も無かったかのように突然動きを止めた。
　先程までの動きが嘘だったかのようなカマロの静寂にミソラとサムは無言のまま顔を合わせることしか出来なかった。