以前は良く笑っていたミソラが最近はあまり笑わなくなっている。
　他愛ない雑談さえもなくなり、検査の数値に関する話しかしなくなっているのだ。
　自分の体がどうなるのか解らない不安があるというのに、それを口にはせずにいる。ラチェットやジョルトが本音を聞き出そうにもミソラは笑みを浮かべて大丈夫だと告げるのだ。

　『彼女の支えになれるのは君だけだと思うが？』

今後、検査や薬は辛いものへとなっていくだけだ。
　その時にすがれる者が居たのならば、弱音を吐ける者が居たのならばきっと耐えられることも増えていくだろう。
　オプティマスに対しても同じ事が言える。
　今後の戦いは激化をしていくだけだ。その時に弱音を吐ける者が居たのならば彼は戦い続けられるだろう。

　『互いに支え合っていけると私は思うよ。現に君はあの時、彼女にその鱗片を見せ、彼女はそれに答えた・・・逆の立場になれば君はどうする？』

　『同じ事をしただろう』

　『だろうな。だからこそ君達でなければならない。私たちではなく、君達は互いを必要としている』

　『・・・・』

らしくもなく、気弱な雰囲気を見せるオプティマスに対し、ラチェットが発破を掛けようとしたときだ。
　ドアが開く音が部屋の中に響く。
　必然的にお互い今の会話を強制的に止める形となる。
　ラチェットは防音システムの電源を切り、何事もなかったかのような雰囲気を取り繕ったため、オプティマスも同じような雰囲気になる。
　二人の視線は音のした方へと向けられる。視線の先にはいつもよりも華やかな格好をしたミソラがおり、同時に向けられた視線に対し驚いた顔をして立っていた。

　『おやおや、これは随分と可愛らしいことだ』

　「本当？私たちの感覚とオートボットの感覚って違うでしょ？・・・アーシーに相談してOKもらったんだけど、えぇっと、どうかな？」

不安げな面持ちでミソラはラチェットを見上げた後、そっとオプティマスへと視線を向けた。
　答えを求めているかのような眼差しにオプティマスは無言のまま手をさしのべる。迷うことなく掌に乗ったミソラを、自身の前まで持ち上げるとジッと見つめる。

　『その格好の方が私の好みだ』

微笑ましいその光景をラチェットは見つめながらずっとこの幸せが続けば良いのにと思う。

　『（不可能だと解っている事を願うなど、らしくもないな）』

以前にはなかった自分の変化、それを不快だとはラチェットは思わない。
　仲間達も誰もが変わりつつある。
　この星の人間達と関わることにより。
　オプティマスが差し出したネックレスをミソラは嬉しそうに受け取ると、迷うことなくネックレスを首につける。
　はにかんだ笑みに無意識の内にオプティマスもラチェットも目元を和らげる。
　少しでも、ほんの一瞬でも良い、この少女が幸せを長く感じられるように願う。
　そのためならば自分達は心を砕こう。

　『ほらほら、私はこの後アイアンハイドの検査をしなければならないんだ。早く行った方が良いのではないか？』

見つかればこれ幸いと彼は同行してくるぞ、と脅しを掛ければオプティマスが無言のままトラックに変形する。
　器用なことにいつの間にかミソラが助手席に座っており、当の本人は酷く驚いた顔をして車内を見ている。
　走り出したトラックを見送ったラチェットはいつまで経ってもやってこないアイアンハイドに対し、すぐに来るよう回線で呼び出しをした。