今なら空さえ飛べそうな勢いでサムは校舎から出て行く。
　その様子からきっとＡ判定がもらえたのだろうと理解出来たミソラは笑みを浮かべる。
　玄関前にはロンが車で迎えに来ており、サムは父親に向かいＡ判定をもらった用紙を突きつけていた。
　息子の努力にロンは満足そうに頷くと、約束通り車を買いに行くと告げ、サムを助手席へと座らせた。

　「ミソラも行くか？」

　「個人的には行きたいんですけど帰りに本屋によって帰ろうと思うので・・・サム、良い車が買えると良いね。おめでとう！」

　「ありがとう！！ほらほら、父さん！！早く出発して！！！」

満面の笑みを浮かべたサムは父をせかし、父は困ったように微笑むとミソラに向かい気をつけて変えるように告げるとキーを回す。
　遠ざかっていく車を見送ったミソラは、目的の本屋に向かって歩き出す。
　いつも立ち寄る本屋はそれほど大きなものでは無い。
　ただ、その本屋の雰囲気が好きなのだ。

　「こんにちは」

　「おや、今日も来たのかい？」

顔見知りとなった店の女主人の言葉にミソラはにっこりと微笑む。
　この本屋の穏やかな雰囲気は彼女が作り出しているものだ。
　他の本屋では味わえないこの暖かさがミソラは好きだった。大通りにある書店の方がたくさんの本があるが、ここのような静かな時間を過ごすことは出来ない。
　おもしろそうなタイトルの本をいくつか手に取り、ざっと無いように目を通す。興味が惹かれる内容の本のみ手に取り残りは元の場所に戻す。

　「いつもありがとね。ちょっと安くしておくよ」

　「ありがとうございます」

感謝の言葉を告げ、頭を軽く下げたミソラは本を受け取る。
　購入した本の分だけおもくなった鞄を持ちながら、ミソラはウィトウィッキー家に帰る道を歩きながら今後のことを考えていた。教師からは進学することを薦められているのだが、それに対して素直に首を振ることは出来ない。
　進学をするにしてもお金がかかるのだ。
　夫妻はミソラが進学をしたいと言えばきっと喜んで資金を出してくれるだろうが、それを素直に受け入れるわけにはいかない。
　今でさえ生活の面倒を見てくれているのだから。

　「そもそもあんな胡散臭い手紙を信じるなんてなぁ」

あの日、ミソラが持っていたのはサムのご先祖様のアーチボルト・ウィトウィッキー直筆の手紙だ。
　ミソラは両親を事故で失っている。
　彼らは常々自分達に何かあれば手紙を頼りなさいと言っていた為、ミソラは葬儀が終わるとその手紙を手に取った。
　書かれていたのは英語であったため、辞書を引きながら必死に書かれていた内容を訳した所、手紙には困ったことがあればウィトウィッキー家を頼れ、必ず君の助けになると書かれていたのだ。
　その手紙を読んだとき、ミソラは意味も無く涙が溢れてきた。
　とても嬉しくて、そして、とても悲しいという感情に支配され、ただ、手紙を抱きしめて涙を流すことしか出来なかったのだ。

　「アーチボルト・ウィトウィッキー」

サムのご先祖様だという彼は北極で偉大な発見をしたという。
　だが後に発狂し、死んでしまったとサムは発表で言っていた。
　会うことは出来ないサムの祖先に対し、ミソラは心の底から感謝の念をいつも抱きながらウィトウィッキー家の世話になっていた。

　「・・・見覚えの無い車がある。アレがサムの車？」

家に着いたミソラの目がまず最初に認識をしたのは黄色だ。