ばらばらの破片になっていたはずのマトリクスがいつの間にか修復されていることにサムは驚いていた。
　先程、あの空間でプライム達の言葉を思い出す。

　「僕は勝ち取ったんだ」

マトリクスを、オプティマスの生死を決めるこの力を。
　痛む体を起こしたサムはマトリクスを握りしめる。
　青い光を放つそれはオプティマスのスパークととてもよく似ていた。

　「オプティマス」

彼の元に近づこうとしたサムにミカエラは手をさしのべる。
　オプティマスへと近づいたサムは彼の体をよじ登ると、大きく開けたままのオプティマスの傷口を見つめる。
　引き裂かれたスパークには光が無い。
　灰色の金属が見えているだけだ。
　その灰色の部分に狙いを定め、サムは勢いよく持っていたマトリクスを突き刺した。
　ドンッという衝撃がオプティマスを中心に一度だけ起きる。

　「どうなった？」

その言葉を呟いたのは誰だったのだろうか。
　誰もが皆、オプティマスへと視線を向けることしかしない。
　風の音しか聞こえない中、動くことをしなかった金属がゆっくりと動き始める。
　灰色の瞳に青い光が宿った瞬間、オプティマスは咳を一度した。

　「おかえり、オプティマス」

役目を果たしたと言うかのようにサムは笑うと親友に微笑みかけた。
　長い間、沈黙したままだったせいか、またはまだマトリクスの力がオプティマスの体に巡りきっていないせいか解らないが、オプティマスは緩慢な動作で起き上がるとサムに視線を向ける。

　『サム、戻ってきてくれたのか』

　「オプティマス・・・ごめん。僕がもっと強かったら」

　『そんなことはない。君の勇気で私は救われたのだ』

ありがとう
　そう言ってオプティマスが微笑んだ瞬間だった。
　突然、オプティマスの上に何かが現れたのだ。
　誰もが対処するのに一寸遅れた瞬間、その何かは持っていた武器を振り回す。

　『マトリクスはこの俺の物だ！！』

そう宣言するのと同時にオプティマスの胸元に手を突き刺し、彼のスパークに刺さっていたマトリクスを強引に抜いてしまう。
　崩れ落ちるオプティマスに見向きもせず、それは現れたときと同様にいつの間にか姿を消してしまった。

　「起きて・・・起きて！！」

サムの声に応えようとするオプティマスだが、パワー不足のため立ち上がることが出来ない。誰の目にも絶望が浮かび上がる。

　「バンブルビー、どうなっているの？今のは誰？」

　『”世界のピンチ！””アレは世界を滅ぼす存在””ろくでなしの変態野郎！！””壊すのだぁーい好き””諸悪根源を絶つ””救えるのはスーパーマンだけだ！！”』

バンブルビーの言葉にミソラは未だ自分を掴んだままの彼の指を叩く。
　どうした？と言うかのように向けられる目に対しミソラは告げた。

　「オプティマスの所に連れて行って」

　『・・・”君を失いたくない”』

ミソラの考えに気づいたバンブルビーは反対だと言うかのように左右に首を振った。

　「勝てるのはスーパーマンだけなんでしょう？」

自分達のスーパーマンなど決まっているではないか。
　優しくて心強いオプティマス。
　ミソラの決意が固いことに気づいたバンブルビーは、渋々という様子でオプティマスに近づくと彼の前にミソラを降ろした。