痛む足を引きずる形でミソラはミカエラに近づくと彼女の手を握る。

　「行こう、サムの所に」

　「えぇッ！！手を貸すわ」

震える手でミカエラはミソラの手首を掴むと立ち上がる。
　肩に腕を回し二人三脚で歩き出した二人の目に飛び込んできたのは、衛生兵による処置を施されているサムの姿だった。
　顔の半分が腫れ上がっているサムは目を閉じたままピクリとも動かない。

　「サム？・・・・うそでしょ、ねぇ！！！」

ミソラは彼女の肩から手を引くと、ミカエラはサムに向かって走り寄り何度も何度もサムの名を呼ぶ。
　
　「離せ！息子の所に行かせろ！！」

　「サム！！サムッ！！」

ロンとジュディの悲痛な声が響く。
　やるせない顔をしたレノックスと目が合う。
　はっきりと見えていたはずの彼の姿が、突然歪んで見えたことにミソラは驚きながら目を擦ると、指先が濡れた感覚がした。
　その感覚でようやく自分が泣いていることに気づいた。

　『”お姫様”』

聞き慣れたラジオ音声にミソラは視線を向けると、懐かしい黄色が見えた。
　戸惑いながらバンブルビーは指を伸ばしてきた。

　『”泣かないで”』

　「バンブルビー」

伸ばされた指先に額を押しつけたミソラは肩を震わせて涙を流す。
　戸惑うかのようなバンブルビーの機械音。
　信じたくなかった。
　サムが死んだなんて。
　労るかのようにそっと両手でミソラを包み込むバンブルビーの優しさ。

　『”彼はとても勇敢だった”』

　「そうだとしても、私はッ！！サムに生きていて欲しかった！！！」

冷たい金属の指に額を押しつけながらミソラは涙を流す。
　軍人の誰もが言葉を無くして立ち尽くしている。
　どうか夢であって欲しい。
　目が覚めたらサムが笑っているはずだ。
　そう思うのに、頭はこれが現実だと訴える。

　『”お姫様””悲しいの？”』

指先で頭を撫でてくれるバンブルビーの声にミソラが頷いた瞬間だった。


　”彼の運命はここでは終わらない”


オプティマスの外装を治したときに聞こえた声が不意に聞こえた。
　弾かれるかのようにサムの方を見たミソラにバンブルビーがどうしたのだと言うかのように青い目を向ける。

　「サム？」

　『”お姫様？”』

ミソラが見つめる先にはサムが居る。
　バンブルビーもまたサムを見つめた時だった。
　彼の目が開いたのと同時に傷が一瞬で消えてしまう。

　「サムッ！！」

生き返ったサムに抱きついたミカエラをサムは愛おしげにそっと抱きしめた。