目覚ましが鳴る音で目を覚ましたミソラは、ナイトテーブルの上で鳴り続ける時計のボタンを押してソレを止める。
　ベッドから下りて大きく伸びたミソラはいつもと変わらない行動をとる。
　身支度を整え、リビングへと下り、ジュディと朝食の準備をし、ロンにコーヒーを煎れ、軽い朝食をとると学校に通うために玄関に向かう。
　玄関に向かう前にミソラは日課となったもう一つの作業を行う。

　「サム、遅刻しちゃうよ？これ以上遅刻すると先生に目をつけられてまずいんじゃない？せっかくのＡ判定、取り消しになっちゃうかもね？」

大きな声で未だ夢の中にいるだろうサムに向かい声をかけると、何かが落ちるような大きな音が響く。
　慌てて階段を下りて来たサムに向かいミソラはにっこりと余裕の笑みを浮かべる。

　「急がないと遅刻しちゃうよ？」

　「もっと早くに起こしてよ！！」

　「人に頼ってばかりじゃ成長しないじゃない？それじゃ、私は先に行くね？」

健闘を祈る。
　そう告げて颯爽とした足取りで去って行くミソラの背中をサムは恨めしげに睨み付けていたが、こんな事をしていても何も始まらないと判断すると朝食をとるためキッチンへと向かって走り出す。
　変わらないサムの行動にミソラは苦笑を浮かべる。
　ミソラがサムの家に世話になってからすでに数年が経っていた。
　その間、ウィトウィッキー家の人達はとても優しく接してくれている。まるで我が子のように。
　ソレを嬉しいと思う反面、いつまでもこの優しさを甘んじて受け入れているわけにはいかないとも思えた。
　
　「いずれ出て行かなきゃなぁ」

過去に何度かそういう話をしたことがあったが、彼らは絶対に首を縦には振らなかった。ミソラよりも少し後に家族となったチワワのモージョすら何かを感づいたらしく反対するかのように激しく吠えたのだ。


　
　「遠慮することは無いのよ？」

　「そうだとも！私たちは家族なんだから！！」



ミソラはウィトウィッキーの名を名乗ってはいない。名乗る事は出来ないと自覚しているのだが、夫妻はミソラの気が変わり、いつか受け入れてくれることを信じている。
　それは面倒くさい国際手続きを行ってまでミソラを自分達の家に住まわせてくれていることから理解が出来る。

　「それはすっごく嬉しいんだけどねぇ」

自分が彼らの輪の中に入って本当に良いのだろうかとミソラが考えていた時だった。
　やかましいエンジン音と共に聞こえてきたクラクションにミソラはうんざりしたかのようにため息を一つはくと、その音を無視するかのように足を動かす。
　どうせこんなことをする人物は顔を見なくても解っているのだから。

　「おい！無視してんじゃねーよ！！！」

　「ちょっと！やめなよ、トレント」

叱咤する女性の声にトレントと呼ばれた男は舌打ちをすると、車を加速させて走って行く。
　通り過ぎる時にご丁寧にも中指を立て、舌を出してきたのだからたいしたものだと内心呆れていると、助手席に乗っているだろう女性の横顔が見えた。
　一瞬だけ女性と、ミカエラと視線が交わる。
　だが、次の瞬間には視線は逸らされる。
　ミソラによって。

　『面倒くさいなぁ。どこの国も男の子ってそういうものなの？』

好き子の前で良い格好をしたい。
　そんなものなのだろうかと考えながら足を動かしている内に、ミソラは学校へと到着する。
　今日の授業で果たしてサムは無事にＡ判定をもらえるのだろうかと考えながら校舎の中へと入っていった。