ラチェットに声をかけようとしたミソラだったが、センサーでミソラが自分に近づいてきている事に気づいていたらしいラチェットは青い目を向けてくる。

　『無事のようで安心したよ』

　「ラチェットもね・・・・逃がしてくれて、ありがとう」

　『大したことはしていない』

ラチェットが動いてくれなければミソラの身柄は今頃政府に渡されていただろう。
　最悪、ディセプティコンへと引き渡しされていたかもしれないのだ。
　脳裏に浮かぶ赤い双眸に身を震わせる。

　『オプティマスが居ないのならば彼の代わりに守るべきだと思っただけだ。もっとも子守はそろそろ終わりそうだが』

　「子守って・・・子供じゃ無いよ」

　『私からしてみれば君はまだまだ子供だよ』

人間とは違って気の遠くなるような時間を生きているのだからと告げたラチェットはミソラを見下ろす。
　ジッと観察するかのように自分を見つめるラチェットをミソラは見つめ返していると、ラチェットは肩をすくめる。

　『子供ながらに頑張ると良い』

　「・・・それって」

　『私は他の者達と違うよ』

さらりと言われた言葉にミソラは顔を真っ赤にする。
　ラチェットが言わんとしていることの意味、違うと否定するのも可笑し話だが、肯定するのも少々恥ずかしい。

　「いつから？」

　『さて、いつからだろうかね？あぁ安心したまえ、気づいているのは私くらいだ。他の者達は気づいていない』

　「だ、誰かに」

　『言っていない。・・・相談ならばいつでも受け付けるが？』

人間とオートボットとの間に恋愛感情は成立するのか、実に興味深いと呟いたラチェットの発言にミソラの顔は真っ赤になる。
　今の口調だと医者としてでは無い。完全に楽しんでいるという言葉にミソラは何も言えずにうつむく。
　知られてるとは思わなかった。
　
　「ラチェット、良いのかな？」

　『抽象的な発言ではわからない』

　「・・・・オプティマスを好きでいても」

　『人とは誰かを愛することに関して誰かの許可を得ねばならない生き物だったかな？』

　「だって！！！」

自分は人では無くなる、この先どうなるのかも解らないのだ。それなのにオプティマスを想い続けていいのかと解らないのだ。
　不安で触れるミソラと視線を合わせたラチェットはそっと頭を指先で撫でてやる。

　『未来とは常に不確定だ。君の行動一つで未来は変わる、良くも悪くもね。私は医者として君の未来を良い方へと導くつもりだ。それでも君は不安かね？悪い結果しか想像出来ないか？』

ラチェットが心を砕いてくれていたことをミソラは知っている。
　きっと何度も失敗をしているのだろうが彼はそれでも諦めない。

　「ラチェット」

　『答えは君自身が見つけなさい』

突き放すように聞こえた言葉であったが、それが彼なりの激昂だということにミソラは気づき頷こうとしたときだった。
　頭上を巨大な隕石が落下し、空高く砂塵が舞う。それが戦いの狼煙となるまでそう時間はかからなかった。