機体が大きく左に傾く感覚にミソラは顔を引きつらせてベルトを握りしめる。大丈夫だと解っていても怖いと思ってしまう。
　がちがちに緊張しているミソラに気づいた男が陽気な声で話しかけてくる

　「万事上手く行っているからそんな顔するなって」

　「えぇ、解ってはいるんですか・・・やっぱりちょっと怖いですね」

この飛行機に乗っているのはレノックスの部下だ。
　彼らはミソラを守るためオプティマスの元にいるということ、逃がすために手伝えという命令が出されていたらしい。
　突然シートをめくられたことに驚いているミソラに向かい、彼らはミソラに味方だと告げたのだ。
　今後の作戦を教えてくれた後、彼らはミソラが居ない間に何が起ったのか教えてくれてた。

　「見物だったぜ？ギャロウェイのあの顔！」

　「ラチェットの奴もわざとらしく演技していたしな！」

　「笑いを堪えるのが辛かった！！」

ゲラゲラと笑い声を上げながら彼らは拳をぶつけ合い、自分達の作戦成功を祝う。
　ミソラの身柄をディセプティコンへと差しだそうとしたギャロウェイであったが、医務室にいるはずのミソラが居ないことに気づくと顔から血の気を引かせた。
　彼らにとってミソラという存在は貴重な命綱だ。
　自分達の命を守るための。

　「皆さんは咎められないのですか？」

相手は大統領補佐官だ、この企みに彼が気づかないわけが無い。
　いずれ何らかの形で処罰が下されないか不安になったミソラが声をかけると、彼らは無言のまま視線を合わせた後、困ったように肩をすくめると口を開く。

　「咎めるって言ってもなぁ・・・あの広い基地を一生懸命走り回って探したけど、ギャロウェイ殿が探してた娘ってのがどこにも居なかったしー？」

　「飛行機の中にいるなんて知らなかったもんなー？」

　「さっさと出て行けって言ったのはギャロウェイ殿だったしー？」

ふざけた口調でそう答えてくれた彼らの様子から、あの基地で本気でミソラを探していた者達などごく僅かだったらしい。
　オートボット達に対する高慢な彼の態度は軍人達にとって好感を得るものでは無く、むしろ不快でしか無かった。
　挙げ句の果てにミソラすらも道具にしようとした彼に対し、軍人達は我慢の限界を迎えたのだ。

　「ありがとうございます」

　「気にするなよ、少佐が決められたことだ・・・んにしても、アンタ達は本気でオプティマスを生き返らせるつもりなのか？あの傷を見たが望み薄だぜ？」

　「サムはきっと方法を見つけます」

彼はきっとオプティマスを蘇らせる方法を手に入れるはずだ。
　それがどのような事なのかは解らない。
　不安が無いと言えば嘘になる。
　けれど、今はサムに全てを賭けるしか方法が無い。
　サムのことを教えてくれた声のことを不意に思い出す。

　「（あの時聞いた声は）」

誰のものだったのだろうかと考える。
　力強くて優しい声。
　オプティマスとよく似た声。
　だから信じようと思えたのだ。

　「まぁ奇跡だろうと、魔法だろうと構わないさ。今の俺たちには彼らの力が必要なんだから」

未だ人類はディセプティコンに対する決定的な戦力を得てはいないのだから。
　オートボット達の助力が無ければ敵を倒すことは不可能に近い。
　守るべき者達のために彼らは戦っている。
　そんな自分達人間に対し、惜しみなく力を貸してくれているオートボット達を軍人達が嫌うわけなど無いのだから。
　彼らの言葉にミソラは嬉しくなり笑みを浮かべた。