見慣れた天井にミソラはゆるく息を吐き出す。
　酷く気怠い体が意識を失う前の事が夢では無いと証明している。仰向けになったまま天井を見つめていると、天井と視界の間に割り込んでくる影があった。

　『気分はいかがかな？』

　「ラチェット？うん・・・平気、」

　『だとは私には見えない』

強がりを拒否するかのようなラチェットの強い言葉にミソラは驚いたように目を開いた後、困ったように眦を下げて笑う。

　「ごめんなさい。すごく疲れてるみたいで体を動かせない・・・それに、寒い」

　『暖房はつけている。温度を上げよう』

ピピッという音がラチェットの中から聞こえてくる。

　「私、どうなったんですか？」

　『・・・検査の結果、君の体内からエネルゴンが大量に失われている。恐らくオプティマスを治すのに使われたのだろう』

　「そうですか」

だが、彼は蘇ってはいない。
　答えを知っている ミソラはラチェットにあえてその問いをしない。
　ただ静かな目をして天井を見上げているだけだ。
　そんなミソラの姿にラチェットは慰めの言葉を口にしない。慰めるよりも先にしなければならないことがあるのだから。

　『体温の低下とエネルゴンの減少が関係あるのかは解らない。たが、無関係では無いことは確かだ。本来ならばもう少し調べたいところなのだが時間が惜しい。ミソラ、こんな事を私は望んではいない。しかし、今の我々にはこうするしか方法が無いのだ。』

理解して受け入れて欲しい。
　改まったラチェットの言葉にミソラはどういう意味だと首を傾げると、ラチェットはミソラが気を失っている間に何が起ったのか説明をしてくれる。
　ギャロウェイという大統領補佐官はミソラの身を自身の指揮下に置こうとしているらしいのだ。今のところレノックスと軍上層部がそれを阻止してくれているが、相手は政府であるため彼らの意見が退けられるのも時間の問題だ。

　「引き渡された後は人体実験のオンパレードになりそう。ラチェットみたいに嬉しそうに注射針を持つ医者が居ないことを願うしかないかなぁ？」

　『・・・君は見た目よりも図太いらしいな。私の気遣いも不要のようだ。今後、検査の針を一つ太くしておこうか』

　「ごめんなさい」

　『・・・話を戻すぞ。最悪なことに君の身元は政府の元には届けられない。ディセプティコンが君たちの身柄の引き渡しを希望しているからな。君がここに居る事をやつらに感づかれてしまったようだ』

脳裏に浮かぶのは赤い双眸。
　無意識の内に身を竦ませたミソラをラチェットは気遣うかのように見つめる。これから告げる事はミソラを更に苦しめるだけだ。
　仲間内からは教えるのを反対する声が上がったが、その意見をラチェットは却下した。
　何も知らないよりも知っていた方がラチェットは良いだろうというのがラチェットの持論だからだ。

　『メガトロンが復活した』

信じられない。
　そう言いたげな眼差しをラチェットは黙って受け止める。
　オプティマス亡き今、彼を止められる者はいない。

　「海深く沈めたって・・・」

言っていたはずだ。
　そう思ったミソラであったが、そもそも人類基準で考える方がどうかしているのだ。相手は地球よりも遙かに技術の進んでいるのだから。