ロンは困ったように手紙とミソラを交互に見つめていた。
　チラリと妻を見た彼に対し、妻のジュディは早く言えと言うかのように鋭い視線を向け、所定の位置となっているソファに座っている息子からは呆れたような視線を向けられた。
　自分は家長なのにと言いたげな顔をしたロンであったが、ここでこうしていても意味が無いと判断しコホンと咳を一つすると告げた。

　「君は今日からウィトウィッキー家の人間だ。遠慮無く過ごしてくれ」

　「・・・・え？」

まさかの返答にミソラは自分の耳を疑う。
　都合の良い解釈をしているのでは無いかと考えている間、いつの間にか側に来ていたジュディが嬉しそうにミソラの肩を抱いてくれる。

　「娘って良いわよね！明日、一緒に服とか必要なものを買いに行きましょ！？」

　「・・・・え？」

ロンとジュディの顔を交互に見ている事しかミソラにはできない。

　「あの、本当にその手紙に書いてあることを信じるんですか？」

震える声で告げた言葉は疑いのものだ。
　ミソラ自身、同じ事をされればきっと疑う。
　信じるわけなど無いのだ。

　「信じるよ、コレに書かれてある筆跡が一緒だもん」

サムはそう言うとどこからか一枚の紙を差し出してくる。
　そこには一人の男性が映っており、その写真の横にはアーチボルト・ウィトウィッキーと書かれている。そのサインとミソラの持ってきた手紙に書かれているサインは一緒だ。

　「で、でも！！頼んだのは私ですけど・・・信じてくれるんですか？」

　「信じるわよ。だって、あなたの目は嘘つきの目じゃないもの」

嬉しそうにはしゃいでいたジュディが突然、穏やかで優しい声で告げる。
　視線を彼女に向けると、優しく微笑んでいる彼女と目が合う。
　住み慣れた故郷でこんな風に自分を見つめてくれる人は両親以外に居なかった。
　なのに遠く離れた異国の地で自分を見つめてくれる人が居る。
　その違いにミソラの目から涙がこぼれ出す。
　慌てて手の甲で涙を拭うが、涙は止まることは無い。

　「そんな乱暴にこすると目に良くない！！ほら、コレを使いなさい」

ジュディと同じく優しい声でロンはそう告げるとハンカチを差し出してきてくれる。
　ソレを受け取ったミソラは涙で濡れた顔を隠すかのように、目元をハンカチで押さえつける。

　「ありがとうございます」

嗚咽を上げて泣きじゃくるミソラを二人は何も言わず、ただ黙って肩を撫でてくれていた。
　そんな三人の姿をサムは少しだけ複雑な心境で見つめていた。


これがミソラがウィトウィッキー家と一緒に暮らすことになった始まりの日。