どうして彼の体はこんなにも冷たくなって動かないのだろうか。
　どうして名を呼ぶのに答えてくれないのだろうか。
　虚ろな目をしてミソラはオプティマスの胸元を見つめる。引き裂かれた外装が痛々しい。
　無意識の内にその場所に近づき、そっと手を添える。
　これでは彼がかわいそうだ、痛いままだと考えていると、痛々しかった外装が綺麗になっていく。開かれていた傷もふさがれていくが、一部分だけが開いたままになる。

　「どうして？」

綺麗に塞がないと彼の目が覚めない。
　ぼんやりとした思考の中でそう考えていると、脳裏に聞いたことの無い声が響く。

　”それはだめだ”

　”彼の生き返る機会が失われてしまう”

　”最後のプライムはまだ死んでは無い”

　”彼が偉業をなすだろう”

　”サミュエル・ウィトウィッキーが”

　「サムが？」

久しく顔を見ていないサムの名を口にした瞬間、凄まじい倦怠感が体を支配した。
　オプティマスの上に倒れ込んだミソラは苦しげな呼吸をする。
　声はもう聞こえない。
　指一本動かせない状態の中、慌ただしく走り回る人影を見つけ必死に腕を伸ばす。
　
　「ミソラ！！」

　「レノックス、さん・・・サムが、蘇らせるから、だから、だから、」

だからサムの言葉を信じて欲しい、そう告げた後、ミソラは意識を手放した。
　青白い顔をして身じろぎ一つしないミソラをレノックスが黙って抱きかかえることしか出来ずにいる中、最初に我に返ったのは軍医であるラチェットとその助手であるジョルトだ。
　すぐさまスキャンをしつつ必要な道具を用意したラチェットが処置を開始する。
　何が起ったのか誰も理解が出来ない。
　ただ、ボロボロだったオプティマスの外装が綺麗に戻されているのだ。
　彼のスパークがあった場所を除いて。

　「・・・エップス、アイアンハイド、サムの行方は解るか？」

　「解らねぇな」

　『バンブルビーが護衛に就いているはずだが』

通信回線はバンブルビー側から強制的に遮断されている。
　ある意味で正しい選択なのだが、せめて極秘回線くらいは生かしておいて欲しかったとアイアンハイドは思うが、それほど彼らが追い詰められていることを証明している。

　「連絡はつかないか」

ならば残る手段は一つだけだ。
　サムが自力でこちらに電話をかけてくる以外に方法は無い。
　待ちの姿勢が気に入らず、チッと舌打ちをしたレノックスを更に苛立たせるギャロウェイの声が響く。

　「何をするつもりだ！その娘は私の指揮下に、」

　『君が彼女を救えるとは思えない』

はっきりと拒絶の言葉を告げたラチェットの目は鋭い。
　体格のまるで違うオートボット達から向けられる殺気にギャロウェイは何も言えなかった。
　そんな彼らを見つめる視線が一つ。
　地球の遙か頭上にある宇宙からそれは見つめていた。

　『こちらサウンドウェーブ。例の小娘を発見。メガトロン様に至急報告を』

主が探していた存在。
　それは主が望む形となって存在していたことをサウンドウェーブは純粋に喜んだ。滅びるだけの未来しか無い下等な種族でもあのお方の役に立てる。
　オプティマス・プライム無き今、彼らにあの小娘を守ることは不可能だ。
　なんなら子飼に命じて誘拐するのも手だとサウンドウェーブはひっそりと笑った。