ラチェットとミソラの会話をオプティマスは黙って聞いていた。
　すでにラチェットから事前報告を受けている。
　いつ話すかというタイミングを話、明日話そうと決めていたのだが、ディセプティコンの反応があったため突然の収集がかかってしまった。

　『薬が効かなくなった今後、君の体には急速にエネルゴンが作られ始めるだろう。当分の間は体調不良が続く・・・。君たちの言葉で言うのならば風邪とよく似た症状だ。私の予想では三週間程その症状が続いた後、症状は一度沈静化するだろう。何度かこのサイクルを繰り返した後、君の体の殆どがエネルゴンへと作り替えられる』

人ではなくなる。
　改めて突きつけられたその事実にミソラは無意識の内に拳を強く握っていた。
　
　「最終的に私はどうなるんですか？」
　
　『正直なところ、私にも解らない・・・ただ、君の体にあるエネルゴンの元はオールスパークだ。あくまでもコレは仮説の一つとして覚えておいて欲しい。場合によっては君自身がオールスパークへとなる可能性が高いのだということを』

　「・・・ラチェットの予想だとどれくらいの確率で私がオールパークになると思いますか？」

　『私は八割の確率で君がオールパークになると予想している』

八割という可能性。
　だが、それはラチェットの見解だ。
　もしかすると奇跡が起きて人のままかもしれない。そう考えたミソラであったが、それはきっと望み薄だろうとすぐに思いなおす。

　「そっか・・・・」

いつこの身がオールスパークになるのかは解らない。
　残された時間が少ないことくらい解っている。
　先の見えない未来がどうしようも無く不安だ。

　『ミソラ、言いにくいことだが君には地下にある隔離施設に移って欲しい』

かつてキューブがそうだったように。
　コンクリートに覆われた世界。
　光の差し込まない世界。
　解っていたことだ。いつかはその場所に自分が閉じ込められることも。
　二年前のあの日、お願いをしたときに受け入れたはずだった。
　だが、二年の歳月はミソラの決意に水を差すこととなったのだ。

　『我々の不在の時にディセプティコンの襲撃を阻止するためだ』

　「・・・解りました」

こんな事なら、とミソラは思う。
　サイドスワイプのカーレースにもう一回だけ参加すべきだった。
　アイアンハイドに乗ってレノックスとアナベルの話をしながらドライブすべきだった。
　ラチェットと一緒に色々な草木の研究に行くべきだった。
　ジョルトとラチェットのお手伝いをもっとしておくべきだった。
　アーシー達と一緒に基地の中を走り回れば良かった。
　ツインズと悪戯をして逃げ回れば良かった。
　バンブルビーに会いに来てと頼めば良かった。
　サムにがんばってねと言えば良かった。

　『ラチェット・・・少しだけ良いか』

黙ってラチェットの報告を聞いていたオプティマスが口を開く。
　ゆっくりと彼の方を見るとオプティマスの青い目と視線が合う。
　初めて会ったときと変わらないその目にミソラはなぜだか解らないが、声を上げて泣きたくなる。
　嫌だと、拒絶の言葉が出そうになるのを唇をかみしめて堪える。

　『一時間で良い。ミソラと出かけてきたい』

　『解った。レノックスには私から伝えておこう』

頼んだ、と言いたげにラチェットはオプティマスの肩を叩いた。

　『ミソラ、これからドライブに行かないか』

いつもと変わらない声での誘いにミソラの目から涙があふれ出た。
もっと、貴方と一緒に色々なところに行きたかった。
その願望を口に出さなかった自分をミソラは褒めたくなった。