待っていたオプティマスの中に鞄を乗せ、ミソラは乗り慣れた助手席へと乗り込む。ミソラがシートベルトを付けたのを確認してからオプティマスは走り出す。
　見慣れた景色が通り過ぎていく。
　ウィトウィッキー家が見えなくなったのと同時にミソラの目から涙が流れる。
　次々と流れる涙をミソラは指で拭っていたが、最終的には手の甲で拭い始める。乱暴なその仕草にオプティマスは思わず声をかけてしまう。

　『目が傷つく』

ナビへと向けられた泣き腫らした目と視線が合う。
　この席に座るミソラはいつも笑顔だった。
　だが、今のミソラにはその笑みが無い。痛々しい目にオプティマスは謝罪の言葉を口にしようと思うが、それが音になることは無かった。
　ミソラを悲しませているのは、ミソラに涙を流させているのは自分なのだ。

　「オプティマス、大丈夫だから」

嗚咽を上げて泣きじゃくるミソラをオプティマスは見つめることしか出来ない。
　こういう時、人間ならば何をするのだろうかと考える。
　以前、二人でドライブをしたときにミソラが持ってきた映画では、泣く女の髪を男が撫でていた。そして女は泣き止み、男に微笑みかけたのだ。
　だが、オプティマスにはミソラを慰める手は無い。

　「貴方の気持ちだけで十分だよ・・・だけど、一つだけお願いして良いのなら。ちょっと間だけで良いから、運転席に行って良い？」

　『それくらい構わない』

何をするのだろうかとオプティマスが考えている間にミソラはシートベルトを外す。
　センサーを使いこの先の道に危険が無いのかオプティマスはすぐに調査を開始する。特に障害となるだろうものがないことに安堵していると、運転席に移動し終えたミソラがシートベルトを装着する。
　カチャッという音が車内に響き、ようやくオプティマスは安心できた。

　「ありがとう。オプティマス」

言い終わるとミソラはハンドルに額を押しつける。
　押し殺した声と震える肩、ハンドルに次々と落ちてくる透明な涙。

　「基地に着く頃にはちゃんと泣き止むから」

だから今だけ泣かせて欲しい。
　その懇願をオプティマスは断ることはしなかった。
　ふいにオプティマスは以前、ミソラが持ってきたＣＤの存在を思い出す。
　お薦めのＣＤだとミソラは言って笑ってジャケットを見せてきた。
　流れる音楽の音色にミソラは驚いたように顔を上げ、ナビを見つめるがナビは何も表示していない。

　『到着するまではかなりの時間がかかる』

少しでも気が紛れれば、別れの悲しみが癒えれば、そう願ったのは嘘では無い。
　
　「ありがとう。オプティマス」

痛々しい顔ではあったが、しっかりとした目をして言われた言葉にオプティマスはホッとした。
　ミソラの一挙一動に対し、オプティマスは自分のスパークが酷くざわつくのを感じていた。ミソラが笑っても、泣いていても、怒っていてもスパークは反応を示す。
　他のオートボット達にはそんな反応は無いのだ。

　『少し横になると良い』

この先の道は一本道だ。
　休める内に休んでおいた方が良いだろうという判断にミソラはゆっくりと頷くとシートに身を沈めた。
　少ししてから聞こえてきた寝息にオプティマスは酷く安心した。