未だ納得していない様子のロンに対しサムが再度説得をすると、ロンは解っていると言うかのように息子の言葉を拒絶する。

　「・・・犠牲無くして、勝利なし」

ウィトウィッキー家の家訓を口にしたロンは、ミソラの旅立ちを妨害するかのような妻の軽く叩いて解放を促す。
　抱きしめられて髪をぐしゃぐしゃにされているミソラは困ったように眦を下げて微笑んでおり、その顔はかつてこの家に来たときと同じようにロンには見えた。
　ジュディによって乱れた髪を直してくれたロンに対し、ミソラは泣きそうになりながらもそれを必死に堪えながら口を開く。

　「本当にお世話に、」

　「いらんよ。そんな他人行儀な言葉なんて。ミソラ・・・もう家族なんだ。ならいうべき言葉は分かるだろう？」

期待した眼差しで見つめてくるロンに向かいミソラは静かに目を伏せる。
　ゆっくりと深呼吸をした後、ミソラはウィトウィッキー家の顔を見つめた。彼らとの思い出は全て愛おしいものばかりだ。
　それと別れを告げるとは心が折れそうなほど辛い。

　「いってきます」

　「「「いってらっしゃい」」」

サムの手から鞄を受け取ったミソラは不安な顔をしているサムに向かい一つ頷く。
　大丈夫だというかのように。
　彼らに手を振りミソラはウィトウィッキー家の玄関から出て行る。
　玄関の所には鮮やかな黄色のカマロがおり、ミソラに気づくと話しかけてきた。

　『”お姫様””君に会いに行くよ””ハイウェイを飛ばしてね”』

　「ありがとう、バンブルビー。でもちゃんと交通速度は守らないと駄目だよ？この間みたいに調子乗っちゃ駄目だからね？」

サムとミカエラとミソラでバンブルビーに乗ってドライブに出かけたのだ。
　その時、バンブルビーを煽る行動をしたドライバーに対し、バンブルビーはムキになった。凄まじいスピードでその車とカーチェイスをはじめ、最終的には警察が出てくるという事態になったのだ。

　『”こいつは手厳しい！！””善処しよう”』
　
　「・・・サムのことお願いね？」

　『”任せて！彼は私が守るから””俺とあいつとは見えない宿命で繋がっている”』

　「たまには遊びに来てくれると嬉しいな」

　『”招待状が届いたわ！！””まぁ素敵！！””これで后は私のものよ！！”』

うきうきとボンネットをはねさせるバンブルビーに対し、落ち着くように彼のドアを軽く撫でてやる。
　バンブルビーはミソラの身に何が起きているのか知っているのだ。
　何度か襲撃に来たディセプティコンから彼はミソラを守ってくれた。感謝してもしきれない。

　『”あの人が待ってる”』

　「うん」

　『”あいつはすげぇ奴だよ！””彼ならきっと、望みを託せる””我々のヒーローだ”』
　
　「そうだね」

再度鳴らされるクラクション。
　急かすようなそれにミソラは立ち上がると、ウィトウィッキー家の人達に向かい手を振った。