大きな掌の上に座ったミソラはオプティマスの指に捕まる。
　ゆっくりと持ち上げられた掌が彼の顔の前まで掲げられた。
　眼前に見える青い大きな目、鏡のようなその目に映るミソラはとても小さな存在だ。

　「いつか私は寿命を迎えて死ぬ」

貴方達にとっては一瞬とも思える短い生だ。
　困ったように笑うミソラ。
　その笑みの意味も、言葉の意味もオプティマスには理解が出来ない。
　人はこうして理解の出来ない言葉を使う。
　合理的では無い事であると解っていながら彼らはそれを用いる、むしろ好んで用いているかのようにオプティマスには感じられた。

　「だから私が死んだら私の中にあるオールスパークの力を回収して欲しい。そして貴方達のために使って欲しい」

オプティマスは何も言わない。
　ただ、彼は考える。
　ミソラが死んだときのことを。
　想像でしか無いのに彼のスパークから裂けるような痛みが発せされ、無意識の内にオプティマスはミソラへ顔を近づけていた。

　「お願いね？」

　『・・・君はこの星の一部になることが出来なくなる』

　「そうだね、でも、きっとそうした方が良い。私が地球の一部になったらたくさんのディセプティコンがこの星を狙ってくるのは明らかだから・・・」

彼らにとって一部とは言えオールスパークの力は利用するに足ることだろう。
　それをミソラは理解をしていた。
　ラチェットが検査をしたいというのもその点からだろう。

　「それにあなた達はこの星を守ってくれている。見返りを求めること無く・・・きっと時には嫌な思いだってしているのに。だからそんな貴方達にすこしでも恩返しをしたいの」

　『ミソラ』

　「人間は貴方達にとって友好的なじゃないかもしれない。でも、貴方達と友人になれる人間が、なりたいと願っている人間が居ることを忘れないで」

手を伸ばせば触れることが出来るほど二人の距離は短い。
　ためらいながらミソラはオプティマスの頬に向かい手を伸ばす。
　触れた指先から伝わる金属の感触、冷たい肌のぬくもりにミソラは微笑む。
　目の前に居るオプティマスは生きているのだと自分の中の何かが囁く。

　『すでに君たちは良き友人だ』

　「ありがとう、オプティマス」

　『ミソラ、一つ約束をして欲しい』

改まったオプティマスに気づいたミソラが小首を傾げる。
　露わになった細い首筋。
　簡単に折れそうなその細さにオプティマスは目を細めた。

　『できる限り長く生きて欲しい。良き理解者として私たちと共にあって欲しい』

永遠に続くことが叶わないことくらいオプティマスとて解っている。
　サムも、ミソラも、いつかの未来で手の届かない場所へと逝くのだ。
　だからどんなに短い時間だとしてもオプティマスはその時間を大切にしたかった。忘れぬように強くメモリーに焼き付けておきたい。

　「うん、約束する・・・私からもオプティマスに約束して欲しいことがある」

申し訳ないと言いたそうに、眦を下げて微笑んだミソラの顔がオプティマスは嫌いだった。

　「もしも私の存在が地球や貴方達に対して危険を及ぼす存在になったら、」

微笑んだまま言われた言葉の先をオプティマスは聞きたくなかった。
　けれど残酷な現実はそれを彼の耳に届けてしまう。

　「約束、守ってね？」

恐らくその約束を果たすときが必ず来るだろうと事はオプティマスには解っていた。そしてそれはミソラも解っている。
　近い未来、そんな未来が来ないことを願うしか出来なかった。