バンブルビーに乗って出かけていったサムの姿を見送ってからミソラは出かける準備をする。
　今日はラチェットと約束をした一週間に一度の定期検診の日だ。
　携帯の時計を見ると待ち合わせの時間まで３０分もないことに気づくと、慌てて化粧をすると、外出用の衣服を着替えたミソラは可笑しくないだろうかと鏡で自分の姿を確認し、特に問題なさそうだと判断すると部屋を出る。

　「ジュディさん！ちょっと私も出かけてきます」

　「えぇ。門限までには帰ってくるのよ？・・・と、いうのは表向きで、遅くなっても全然構わないわ」

妙に浮かれているジュディの様子から自分の息子も引き取っている少女もデートであると思っているらしく、早く新しい家族の顔が見たいわねとモージョに話しかけていた。
　そんな妻に対しロンが呆れたような顔をしており、対照的な二人の態度にミソラが苦笑を浮かべていると、クラクションの音がしたため慌てて家を飛び出す。

　「・・・オプティマス？」

意外な迎えに名を呼ぶとドアが開かれる。
　車の中に乗り込むと案の定、中は無人であった。ミソラがシートベルトを締めるとドアがそっと閉められ車が動き出す。

　「まさか貴方が来てくれるとは思わなかったな」

前回の迎えはアイアンハイドだった。
　意外にも運転席にはレノックスがおり、彼とアイアンハイドとミソラは他愛ない話をしながらラチェットの元に向かったのだ。
　もっともしゃべっていたのは主にレノックスで、彼の口から出てくる言葉には必ず妻と娘の名前があった。

　『私が迎えに来るのは嫌か？』

　「ううん、そんなことない。ただ、オプティマスは忙しいって聞いていたから」

司令官として彼にはやるべき事がたくさんあるのだ。
　他のオートボット達も協力をしてくれているのだが、彼がしなければならない事は山のようにあるらしく、休む間もないとアイアンハンドがぼやいていた。
　本来ならばここまで負担はかからないはずだった。
　オートボット達の優秀な副官がいたのならば。
　彼の最期の姿を思い出していたミソラに対し、オプティマスはいつもと変わらない声で話しかけてくる

　『・・・私とてたまには気晴らしをしたくなる時もある』

　「そうだよね。毎日お疲れ様」

　『ありがとう』

　「そういえば気晴らしって言っていたけど、どこかに行くの？」

　『あぁ。君を迎えに来る前に周辺をリサーチしてきた。いくつか行ってみたい所がある。構わないだろうか？』

　「勿論！」

嬉しそうに笑ったミソラは楽しそうな顔をして窓の外へと視線を向ける。
　無邪気なその顔を見つめながらオプティマスは自分の中のスパークがざわつくのを感じ取っていた。
　そのざわつきを誤魔化すかのようにオプティマスは音楽を流す。
　以前、ミソラが口ずさんでいたフレーズを覚えており、それを元に歌手と曲名を調べたのだ。
　流れてきた音楽にミソラは驚いたようにナビを見つめたが、すぐに破顔すると楽しそうな声で歌詞を口ずさむ。

　「オプティマスも音楽を聴くの？」

　『・・・音楽や映画などの娯楽は人間とのコミュニケーションを円滑に行うために有効だとレノックスが言っていた』

　「なるほど。それで気に入った曲はあった？」

　『正直なところ大量のデータがありすぎて解りかねる・・・だから君がお薦めだと思えるものをいくつか教えて欲しい』

意外な申し出であったミソラは驚いた顔をするが、すぐに花が咲いたような笑みを浮かべると気に入っている歌手の名を口にした。