オプティマスの後ろに居るラチェットは口を出すつもりは無いらしいが、彼の青い目は時折、オプティマスに対しもの言いたげに細められている。
　そのことからきっとラチェットは今すぐにでもミソラをここに置きたいのだろう。
　ラチェットの考えを承知の上で、ミソラは口を開く。

　「一つだけ。・・・・一つだけ、お願いがあるんです」

　『私に出来ることならば』

　「高校を卒業するまで待ってくれませんか？」

卒業までの時間はわずかだ。その短い時間をどうかウィトウィッキー家で過ごさせて欲しいとミソラは望んでいる。
　高校生活だけは普通の女の子として過ごすことを望んでいるミソラの姿に、オプティマスは了承しようとした時、ラチェットから極秘回線で通信が入ってくる。

　【オプティマス、時間はあまりない。ディセプティコンの残党達がこの星にいるのだから。彼女を野放しにするのは危険すぎる。一刻も早く我々の元で保護すべきだ】

　【解っている。だが・・・彼女は自分の身に起きたことに対し戸惑っている。戸惑いながらも我々に対して協力しようとしてくれている。ならば彼女の気持ちに答えるべきでは無いか？】

　【・・・私が言いたいことがそれだけでは無いことくらい解っているのだろう？】

　【あぁ、解っている】

　【だったら良い。私から何か言うことはもうしない】

ブツリと乱暴に切られた通信。
　機嫌の悪さを伝えるかのようなそのやり方にオプティマスは苦笑を浮かべる。
　渋々ながらも了承してくれた軍医の優しさが嬉しかった。

　「オプティマス、駄目でしょうか？その方が誤魔化すことが出来ると思うんだけど？」

　『いいや。そんなことは無い。君の意見を尊重しよう、ミソラ』

仮初めの自由だと言うことはその場にいる誰もが解っていた。

　「ありがとうございます、オプティマス」

嬉しそうに笑うその顔を見つめながらオプティマスは思う。
　自由はすべての生き物が持つ権利。
　掲げていた信念を覆すかのような事が目の前で起きている。

　『ミソラ、定期的に検査をしたいから一週間に一度ここに来て欲しい。都合は君に合わせよう』

　「わかりました」

ラチェットと今後の相談をするミソラを見つめながら、オプティマスは初めて彼女に触れようとしたときのことを思い出す。
　あの時、自分を弾いたのはミソラの中にあるエネルゴンだ。
　痛みこそ最初は感じたが、次に感じたのは失われていたエネルギーが補給される感覚だった。久しく感じなかったその感覚にオプティマスは言葉を失ったのだ。
　本当はあの時から薄々、ミソラの身に起きていたことをオートボット達は知っていた。
　知っていて伝えなかったのだ。

　「大丈夫ですよ、オプティマス」

ラチェットへと向けられていた視線がオプティマスへと向けられる。
　いつもと変わらない穏やかなその瞳にオプティマスは自身のスパークが少し、弾けた感覚がしたのを感じた。

　「逃げたりなんかしません。約束ですし・・・・それに、」

困ったような顔をして言葉を句切ったミソラは研究施設を見渡す。
　ミソラの目はサムやミカエラのように希望に満ちた目をしてはいない。
　穏やかそうなものであるのに、その瞳の奥には常に諦めがある。

　「慣れていますから」

その先の言葉は出てこなかったが、オプティマスにはミソラが何を言おうとしているのか解ってしまう。
　意思を殺されるのも、実験台にされるのも、ミソラは過去に体験している。
　ただ単純に、それを行うモノが変わっただけでしか無いのだ。
　その言葉がなぜだか分からないがオプティマスには不快に感じられ、スパークが酷く荒れた。