掌から感じる心臓の鼓動に自分が間違いなく生きているのだと解ったミソラはゆるく息を吐き出す。

　「何故私が生きていられたのか、それはきっとオプティマス達の方が解っていると思う。不思議だよね・・・私のことなのに私は何も知らない。そして私じゃ無い誰かがいつも私のことを知っている」

　『正確な答えはまだ出てはいない。その答えが出るのはこれからだ』

　「でも、貴方達はある程度の予想をすでに出しているのでしょう？きっとそれは正解だよ・・・」

だから呼んだのは自分だけだったのだろう？そう言いたげに小首を傾げたミソラに対し、オプティマスは返す言葉を見つけられず沈黙した。

　「ごめんなさい、ちょっと意地悪な言い方だった。オプティマスが悪いわけじゃないのにね。・・・氷の中で私はずっと眠っていた。そこにサムのご先祖様がやって来て、メガトロンと私を見つけた。サムのお爺さんは短い間だけれど私を保護してくれた」

思い出すのは彼の優しい眼差しだ。
　サムの目は彼ととてもよく似ている。無邪気でいながら強い力を持ったその瞳が好きだ。

　「でもその暮らしは長くは続かなかった。結成されたばかりのセクター７によって私は連行され、そしてそこで来る日も来る日も実験をされ続けた」

彼らにとってミソラという存在は貴重なサンプルだったのだろう。
　死なない程度に繰り返される実験、助けを求める声は誰の耳にも届けられなかった。

　『君と同じ人間なのだろう？』

何故、そんな残酷なことが出来るのか理解が出来ないと言いたげなオプティマスの声にミソラは困ったように笑う。
　
　「同じ人間だから、かな」

人類の繁栄のために犠牲になれることを誇りに思え。
　科学者の一人はそう言って笑っていた。
　とても、とても、嬉しそうに。
　その笑みを思い出したミソラは背筋に嫌なものが伝い落ちていくのを感じ、ぶるりと体を震わせた。
　
　『・・・君を傷つけた奴らはもうこの世には居ない』

慰めるかのような言葉にミソラは驚いたように目を見張る。
　言葉を失っているミソラが自分のことを信用していないと思ったのか、オプティマスはシートベルトの拘束を少しだけ強くした。
　
　「ありがとう、オプティマス」

安心したと言うかのように笑ったミソラの顔を見てオプティマスは安堵する。
　非情な事ばかりがその身に降り注いだミソラ。できるだけ安心させてやりたいと彼は思う。
　これからは酷いことは何も起らないと言いたい。だが、きっとそれは無理だろうとオプティマスには解っていた。
　当の本人もまたそれを解っている。

　「オプティマス？」

突然黙り込んだオプティマスに対し、戸惑う声でミソラは彼の名を口にする。

　『続きを聞いても良いだろうか？』

忘れたい過去を、消したい傷をえぐるかのような己の言葉。
　オプティマスの声はいつもと何も変わらない、だが、彼がなんとなくこの問いかけを良く思っていないことはミソラにも理解が出来た。

　「私はアーチボルト・ウィトウィッキーの弟子の子孫達によって救出されました。彼らはずっと師と交わした約束を果たそうとしてくれていたんです」

　『約束？』

　「私を助け出してやって欲しい、力になってやって欲しい、という約束です」

馬鹿馬鹿しいと一蹴してしまえば良いのに彼らはそれを果たしてくれた。
　だから今、ミソラはここに居るのだ。