全てのピースが己の中で繋がったのを理解したミソラは静かに涙を流している。
　この涙が何を意味しているのか解らない。
　
　『手間をかけさせおって・・・貴様は処分する。使えぬ奴隷は必要ない』

地面に叩付けられたミソラは声を上げること無く涙を流す。
　自分の中にある大量の記憶を一度に引き出され、脳が処理をすることができずにいるのだ。
　無防備すぎるミソラに向かい、メガトロンが握った拳を容赦なく叩付けようとしたときだった。
　バチンッと聞き慣れた音が聞こえる。
　何が起ったのだと思いながら視界を上げたミソラの目には、信じられないと言いたげな顔をして己の指を見て居るメガトロンの姿があった。

　『これは、このエネルギーは・・・・。小娘、貴様は・・・・そうか。なるほどな、そういうことか！！予定変更だ。喜べ小娘、貴様には俺のために役立ってもらうぞ』

死ぬことは許さん、逃げることも許さん、貴様は永遠に俺のモノだ。
　そう言うかのように伸ばされる手はあの頃と同じだ。
　逃げなければと脳が指令を出す。
　この手に掴まればまた、永遠にも似た苦しみが続くのは明らかだ。
　後ろに下がったミソラに対し、メガトロンは苛立ったように足踏みをする。

　「っ・・・」

　『貴様の意思などこの世に存在しない！！』

このまま自分はまた同じ事を繰り返すのか。メガトロンの望むまま。自我さえ無く。
　そう考えた瞬間、それだけは嫌だった。
　だからミソラがその行動を取ったのはごく自然なことでもあった。
　皮肉なことに、今、二人が居るのは高い塔の上。

　『待て！！』

恐怖で震える体を引きずるようにしてミソラはその塔から身を投げ出した。
　これで自分は死んでしまう。
　だが、これでメガトロンに捕まることも無い。
　奇妙な安堵感に目を閉じた時、落下していた体が堅い何かに衝突する。
　もう地面に激突したのだろうかとミソラは思ったが、ならば何故、痛みが無いのだと考えているとすぐ近くから声が聞こえた。

　『おいおい！人間ってのはこんな所から落ちたら死ぬくらい脆いんだろ？』

　「あなたは」

青い目をしたオートボット、オプティマス達と一緒に居たなとミソラが考えていると、そのオートボットは高い塔をいとも簡単に移動をし、安全なところまでミソラを連れてきてくれる。
　労るかのように降ろされたミソラは彼を見上げる。

　「ありがとうございます」

　『別にいいさ』

互いに何も言葉を発しないため沈黙が続く。
　遠くの方からき聞こえてくる銃撃戦の音、爆発の音、それがここが戦場なのだと理解させられる。

　『死ぬつもりだったのか？』

静かな声だった。
　だが、その言葉にミソラは自分の中で何かが決壊したのを感じ取った。

　「本当は、死にたくなんてッ・・・ない！！生きたいよ、サム達と一緒に！！！でもッ・・・でも、できないんだよ」

涙で濡れた瞳で彼の青い瞳を見つめる。
　彼が悪いのでは無い、解っているのだ。これはただの八つ当たりでしか無いことくらい。

　「逃げられない」

メガトロンから。
　生き続ける限りメガトロンは自分を捕まえ続け、そして地獄のような日々が始まる。そんな生活はもう嫌だった。
　顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくるミソラを彼は黙って見つめることしかできなかったが、意を決したかのように自分よりも小さな生き物に手を伸ばした。