慌ただしく揺れ動く視界。上下左右、乱暴に動いていたソレは突然何かの上に着地をするとミソラを己の足下に叩付ける。

　「っ・・・ぅ」

叩付けられた衝撃に呻き声を上げながらミソラは顔を上げれば、逆光で顔は見えないが、自分を見下ろす赤い瞳に気づくと息をのむ。
　ディセプティコンだ。

　『小娘、貴様今まで何をしていた！？この俺が凍り漬けにされていたというのに助けることすらせぬとは・・・殺されたいのか！！！！』

　「ひっ！！！！」

頭上から聞こえる大声に頭を両手で覆うと身を屈める。
　この声を知っている。忘れられるわけが無いのだ。
　
　「し、知らない・・・知らない！！私は、貴方の事なんてしらない！！」

ミソラが口にした否定の言葉に気分を害したらしいメガトロンは、ミソラを手で掴むと己の顔と同じ高さまで持ち上げた。
　初めて見る顔なのにその顔を知っている自分に対し、ミソラは混乱する。
　自分は彼を知らない。全くと言って良いほど知らないのだ。なのに彼の記憶がある。
　
　『ふんっ！！都合の悪いことは忘れたふりをするのか？元々馬鹿だとは思っていたがここまでだとはな・・・いいだろう、思い出させてやる』

　「・・・・いやだ、やだ！！やだ、やだやだ！！！」

身を捩り必死に抵抗をするがメガトロンの拘束から逃れることは出来ない。
　彼は反抗的なミソラに苛立ったかのように手に力を込めると、ミソラは呻き声を上げて動きを止める。
　必死に呼吸をしようとするミソラの顔をメガトロンはのぞき込む。
　彼の赤い瞳の奥から光が放たれ、ミソラの目の中に入ったその瞬間、ミソラの脳裏に記憶が鮮明に蘇ってきた。
　幼い頃の記憶から始まったそれの中にメガトロンが現れる。
　彼の圧倒的な力を目の当たりにしたミソラは命乞いをし、忠誠を誓ったのだ。

　「違う、違う！！」

否定をするかのように言葉を口にするが頭のどこかでこれが真実なのだと告げる。
　そしてメガトロンの側にミソラは居た。
　彼がキューブを無事に見つけ、その場所へと向かったまでは良かったが、途中で重力の影響を受けて北極に墜落をしたのだ。
　彼と共に氷の世界に閉じ込められる形となったミソラは静かに目を閉じたのだ。



　『安心しなさい。君は生きている』



優しい風貌をした男がそう告げる。
　白いひげと髪をした男、その男はアーチボルト・ウィトウィッキーと名乗ったのだ。
　短い間であったがミソラは彼と共に過ごす。
　そして彼と別れた後はセクター７が所有する施設へと連れて行かれた。



　『貴重なサンプルだ。殺すなよ』



モルモットのように切り刻まれ、注射を打たれる日々を過ごす。
　永遠にも続くその日々は終わりを迎えた。



　『初めまして』

　『今日から君と私たちは家族だよ』



助けてくれた夫妻の娘として生きることとなった。
　彼らはウィトウィッキーの弟子の子孫で、彼からミソラを助けるように依頼をされていたとのことだった。
　彼らとの繋がりも終わりを迎えたが、彼らは新たな繋がりを残しておいてくれたのだ。
　ウィトウィッキー家を頼れという手紙を。
　そしてその手紙に従い、ミソラはウィトウィッキー家に来たのだ。