バンブルビーの登場により状況はケイドにとって有利なものへとなった。ＴＲＦの車に押し込められそうになっていたミソラに気づいたケイドは、解放しろと言うかのようにレノックスへと鋭い視線を向ければ彼はミソラの拘束を解くように部下に命令を下す。
　手首に嵌められていた手錠が外されたのと同時にミソラはケイドの側へと近づく。

　「怪我は！？」

　「大丈夫です。それほど酷くはありません・・・すぐに直ります」

殴られた場所を擦りながらミソラが答えればケイドは辛そうに目を細め、労るかのようにそっと頭を撫でてくれる。

　「守れなくて悪かった」

その手の優しさは少しだけオプティマスを思い出させた。
　込み上げてきたモノを必死に押さえながらミソラは大丈夫だと小さな声で告げれば、ケイドはミソラが負った怪我は重傷であると判断したらしく険しい目をレノックスへと向ける。

　「俺達は帰らせてもらう」

ミソラを守るかのように自分の方へと引き寄せたケイドはこの場に居るＴＲＦへと威嚇するかのような声で告げると、バンブルビーへと向かって近づいていく。
　ミソラが扉に手を掛けたときだ。

　「ミソラ！オプティマスから連絡はあったか？」

レノックスの声にミソラの指がビクリと震える。
　動揺する心境を現すかのように指先は震えていたが、ゆっくりとその手を握りしめたミソラはレノックスの方へと視線を向けた。

　「・・・いいえ。なにも」

落胆と不安を隠すことをしないまま力無く首を振ったミソラの姿から、その返答が嘘では無いと悟ったレノックスは自分が失言したことをこの時になって悟る。

　「色々と悪かった」

　「気にしないで下さい。オプティマスならきっと無事です。きっと何も無かったかのように戻ってくるはずです」

ぎこちなく微笑んで誤魔化したミソラだったが、内心はとても複雑なものであった。
　あの日の夜からオプティマスとの繋がりが今までに無い程、希薄になってしまっていることはミソラが誰よりも知っている。
　それを誰にも言えないままミソラは今日まで過ごしてきた。
　言ってしまえば本当にそうなってしまうような気がしたからだ。
　あんなにも身近に感じられたはずの暖かな温もりも、確かな繋がりも、全てが見えない何かで覆い隠されてしまっていて、オプティマスの安否は何一つとして解らない。
　オールスパークの力にすら対抗できるほどの力。
　オプティマスは創造主に会いに行くと言っていたが、彼等の力はもしかすると想像以上のもので、オプティマス一人だけで行かせたのは軽率だったのでは無いだろうか？と考えていた時だ。

　『”お姫様””帰りましょう”』

クラクションを鳴らして自分に乗ることを促したバンブルビーによってミソラは、ここが危険な場所なのだと思い出す。
　自分一人だけではなく、ケイドも一緒なのだから一刻も早く安全な場所に逃げなければと判断するとレノックスに向かい一礼をしたミソラはバンブルビーの中に乗る。
　
　『”おうちに帰りましょ”』

　「・・・うん。そうだね」

帰ったらイザベラと一緒に暮らす準備をしなければならない。
　やることが多いなと思う反面、それを嬉しく思う自分がいた事に少しだけミソラは安心した。