キャノピーは目の前にいる少女に向かい必死に言葉を紡いでる。
　泣きじゃくる少女の小さな背中をミソラは無力感に苛まれながら見つめていると、青い瞳がヒタリと向けられた。

　『あぁ・・・来てくれたのか？』

　「約束しましたから」

守れるだろう約束は最大限守りたいのだと思いながらミソラがそう告げればキャノピーは困ったように微笑んだ。
　それがかつての家族が良く浮かべていた顔と同じで、ソレが少しだけミソラを苦しくさせた。

　「ごめんなさい。間に合わなかった」

　『良いんだ。貴方が来てくれた。これでイザベラはもう大丈夫だと解ったから』

　「違うよ。・・・私は貴方を助けたかったの。貴方と一緒にここから離れたかったの、キャノピー」

痛みを和らげられれば、そう思いながらキャノピーの頬に触れる。
　オールスパークの力を使い痛みを緩和させながらミソラは彼が安らかに眠れるようにすることしか出来ない自分を悔やむ。

　『私の家族を』

　「必ず守ります。貴方の分まで必ず」

だから任せて欲しい。
　そう言うかのように頷いたミソラの返答にキャノピーは心底安心したと言うかのようにそのカメラアイから光を消す。
　労るかのようにキャノピーの頬を一度だけ撫でたミソラは、言葉を失って無言のまま涙を流している少女へと視線を向ける。
　
　「私はミソラ。キャノピーから貴方の事は聞いている。だから、私と一緒に来てくれる？イザベラ」

彼女の名を呼べば驚いたようにイザベラは目を見張る。
　名乗ってもいない人間が自分の名を知っていたこと、そして何よりキャノピーの存在を知っていたことに心底驚いていた。
　彼女へと向かいミソラはできるだけ友好的な笑みを浮かべながら自分と一緒に来てくれるように説得をする。

　「独りの辛さは解っているつもりだよ・・・凄く辛くて、そして悲しいよね。例え彼等がいてくれたとしてもやっぱり泣きたくなるときだってある。キャノピーは貴方のそんな気持ちを解っていた・・・だから私に貴方の事を頼んだ。キャノピーを思うのならば私と一緒に来て欲しい」

　「なんで、知ってるの？」

私達の名前も関係も。
　懐疑心に満ちた眼差しを向けるイザベラへとミソラは困ったように眦を下げながら微笑む。
　全てはオールスパークを通して伝わってきた事だ。
　そう言いたいがイザベラにその存在を告げたとしてもきっと受け入れられないだろうと悟ると、キャノピーへと視線を向けながら口を開く。

　「ちょっと特殊な方法を使ってキャノピーから貴方の事を頼まれたの。家族を助けてって・・・私にはちょっと特殊な力があってね。彼等の声が聞こえるんだ。彼は多分きっと自分身に起きることを薄々解っていた。だから貴方の事を託せる人を探していたの」

ミソラがそう告げればイザベラは縋るようにミソラの手を握った。
　それが彼女の答えだと悟ったミソラは泥で汚れたイザベラの頬を拭う。

　「イザベラ。私は絶対に貴方を独りにはしない」

　「ッ・・・・」

大きな瞳から無言のままイザベラはボロボロと涙を流す。
　必死に何かを堪えながら、別れを惜しみながらイザベラはミソラの手を握り返す。
　伝わってくる人の温もりに、懐かしい暖かさに堪えきれないと言うかのように嗚咽をあえげて泣くイザベラの背をミソラは労るかのように撫でる。
　今だけは貴方を失って泣くことを許して欲しい、そう思いながら目の前にいるキャノピーへと向かいそっと微笑んだ。