ケイドとの暮しはミソラはウィトウィッキー家で暮していた日々を思い出すようになるほどだった。
　懐かしい過去を思い出したミソラの唇がゆるく笑みを浮かべる。

　「ありがとう。ビー・・・ずっと側に居てくれて」

　『”お安いご用さ”』

バンブルビーはずっとミソラの側に居た。
　そうすることが当然のことだと言うかのように。
　オプティマスが不在の間は自分が守るのだと言うかのように。
　心強い守護者にミソラは目を細めて笑うと、そっと自分の胸元に、心臓がある場所へと手を添える。
　自身の中にあるオールスパークが伝えてくるのだ。
　オプティマスは無事だと。
　彼との繋がりは未だ途絶えてはいないのだと。
　ただ、それだけでミソラには満足だった。
　けれど不安というモノは中々消えなくて、こうして時折、一人でふらりと抜け出しては夜空を見上げるということを繰り返している。
　オプティマスが無事であるように、と願いながら。
　ケイドはミソラの行動を解っていても黙認してくれている。
　けれどこうして迎えとしてオートボットの誰かを派遣してくれているのだ。
　時折、泣き腫れた目をしたミソラが朝の挨拶をしても彼は何も見なかった、何も知らないと言うかのように変わらぬ挨拶をしてくれる。
　
　「はやく帰ってこないかなぁ？」

　『”帰ってきたら””きっとボロボロ”』

　「だね。オプティマスは戦闘になると意外と乱暴になる・・・私、いつも無茶しないでねって言うのにオプティマスったら傷だらけで帰ってくることが多くて」

　『”お姫様””いつも泣いてた”』

　「・・・あー。そうだね」

ＮＥＳＴで過ごしていた日々を思い出したミソラはそんなこともあったなぁと思いながら懐かしい人達の顔を思い出す。
　色々と親身になってくれた軍人達、兄のように父のように力になってくれたレノックス、彼等が無事である事を願いながらミソラは静かに目を伏せる。
　自分達が今こうしているのも事前に情報を入手したＮＥＳＴ部隊の人達が襲撃の事を教えてくれ、逃げろと言ってくれたからなのだ。
　彼等がその件で罰せられていなければ良いのにと思っていたときだ。

　『”もしも””彼が””ボロボロだった””その時は””殴りましょう！””君を泣かせた罰だ！！！”』

　「私が殴ると手が痛そうだなぁ・・・あ！そうだ！！もしも帰ってきたオプティマスがボロボロだったら私の分もビーが殴ってくれる？」

　『”喜んで”』

　「手加減してね？」

　『”ソレが””お姫様の望みなら””ご期待にお応えしよう”』

他愛ないやり取りに、愛しい過去と変わらぬやり取りにミソラは愛おしげに目を細めて笑った後、空に浮かぶ星を見て時刻が深夜であることに気づくと立ち上がる。

　「帰ろうか」

　『”送ろう”』

　「ありがとう」

心からの感謝を告げながらバンブルビーへと向かい一歩踏み出したときだ。
　ミソラは自分の中にあるオールスパークが何かを訴えるかのようにズキリと強い痛みを放ったことに気づく。
　痛みは一瞬ではあったが、歩みを止めるのには十分な時間だった。
　オールスパークが伝えてきたこと、それをミソラは理解すると顔を両手で覆うと静かに涙を流し始めた。
　オプティマスと自分との間にあったはずの微かな繋がりが一瞬でボロボロなものとなってしまった。
　ソレ何を意味しているのかミソラには解らない。
　ただ、彼が彼でなくなってしまった。
　それだけが理解出来て、ソレがどうしようも泣く悲しくて、込み上げてくる涙を止めることがどうしても出来なかった。