全身に走る痛みのせいでミソラはその場からすぐに動くことが出来なかった。チカチカとする視界の中でオプティマスに近づくロックダウンの姿を見つける。
　行かなければ、そう思い身を起こそうとするが身体の節々が痛みを上げた為、すぐに起き上がることは難しそうだった。
　這いずりながらオプティマスの元へと向かってミソラは移動をする。

　「オプティマス」

こみ上げてきた涙のせいで視界が歪む。
　土で濡れた手で乱暴に目元を擦り、ゆっくりとした動きでオプティマスに近づく。
　脳裏に少しずつだが記憶が蘇り始める。
　オプティマスとの出会ったときのこと、彼に対して抱いていた感情、いつしかそれが変化し始めた時、二人きりの約束。

　「やめて、やめてよ・・・」

これではまるで、オプティマスと二度と会えないと言っているようなものだとミソラは思う。
　涙を拭うのも忘れミソラは必死に移動をしていたが、このままでは間に合わないと思い身体を起こす。
　痛みでふらつく足を必死に動かす。
　途中で何度か足から力が抜けて地面に倒れ込むが、そのたびに起き上がりオプティマスの元へと向かって歩き続ける。

　「お願いだから」

オプティマスと言葉を交わしていたロックダウンが離れていく。
　倒れて動けないままのオプティマスへと宇宙船が近づいたかと思えば、中から小型の宇宙船が放たれる。
　オプティマスの頭上で動きを止めた宇宙船から網が放たれ、オプティマスとテッサが乗っていた車を捕獲した。

　「嘘だ」　

ゆっくりと上昇を開始した宇宙船の姿を見たミソラは痛みを忘れる。
　無意識の内に走り出す。
　オプティマスが自分を守るためにその場から遠ざけてくれたと解っている。
　だが、その代わりと言うかのようにオプティマスが捕まってしまった。
　このまま何もしなければ、今この瞬間に助け出さなければオプティマスとは二度と会えない。
　そう自分の中にあるオールスパークが訴えてくるのだ。

　「オプティマス！オプティマス！！！」

何かが自分の中でカチリと音を立てて繋がったその瞬間、バラバラだった記憶のピースが急速に組み立てられ、そして一つにまとまった。
　それと同時にミソラは迷うことなくオプティマスへと向かって走り出す。息が切れ、胸が痛くなっているのが、それを全て無視してミソラは走る。

　「オプティマスッ！！」

何度何度も彼の名を呼ぶ。
　一瞬だけオプティマスの視線が向けられる。青い目が、信じられないと言うかのように開かれるのを見つめながらミソラは声を張り上げる。

　「思い出したの、私、全部、全部思い出したのッ！！！！」

宇宙船のエンジンがうるさいが、きっとオプティマスには自分の声が届いていると信じて声を張り上げながらミソラはオプティマスに話しかける。
　草の上からいつの間にか道路の上へと乗り上げたミソラは必死に手を伸ばしながら話しかける。

　「ごめんなさい、ごめんなさい、オプティマス！！！」

ずっと守ってくれていたのに忘れてしまったことを悔やむかのように、懺悔するかのようにミソラは声を出し続ける。
　オプティマスの青い目を見つめる事しか出来ないでいる中、穏やかな声が聞こえる

　『ミソラ、君が無事で良かった』

　「ッ・・・・」

その言葉を聞いた瞬間、全ての音がミソラの中から消える。
　足取りが一歩、又一歩とゆっくりとしたものへと代わり、最後には止まってしまうのと同時に、ミソラはその場に崩れ落ちた。

　「置いていかないで、オプティマス」

貴方のいない世界で、貴方を失った世界で、どうやって生きていけば良いのだ。
　顔を覆って泣き崩れたミソラの嘆きに応える者は誰も居ない。