人間からの執拗な追撃からオプティマスはミソラを守り続けた。
　長い長い逃亡生活、それは自ら決意をしたものならば問題が無いのだろう。しかし、記憶を失い、気づけばこの状況だったというミソラにとって今の生活は非常にストレスの溜まるものだった。
　負傷した傷もあまり状態が良くないらしく、熱を出していることが多くなっていた。
　携帯食もすでになくなっており、食事も満足にしていない今の状況はミソラにとって最悪であった。

　『ミソラ』

オプティマスにとっても状況は最悪であった。
　ミソラは自身の中にあるオールスパークの使い方を忘れてしまっており、彼にエネルギーを補充するというやり方が全く解らないのだ。
　故に、オプティマスは深刻なエネルギー不足と人間達からの攻撃による破損が日に日に酷くなっていっていた。
　けれど彼はその事をミソラに告げることはしなかった。
　
　「私は大丈夫ですから。気にしないで下さい」

本当ならばウィトウィッキー家の元に帰りたいのだろうが、それを口にせずオプティマスの判断に着いてきてくれている。
　それはきっと自分にも向けられる人間の銃口がそうさせているのだ。

　『（何故だ、何故彼女まで・・・）』

同じ人間だというのに。
　なぜ、彼女にまで凶刃を向けるのだとオプティマスは思う。
　傷つき疲れ果てたスパークの中にだんだんと人間に対する失望と強い怒りがこみ上げてくる。
　疲れ果てた二人は閉鎖されたある建物の中へと逃げ込んだ。

　『ミソラ、一つ頼みがある』

熱で朦朧とした意識の中、自分を呼ぶオプティマスの声にミソラは目を開く。
　
　『私のエネルギーがそろそろ尽きる。君は体調が戻るまで、シートの下に隠れていて欲しい・・・』

シート下に人一人分、隠れられるような広さがいつの間にか出来ていた。
　叶うのならばミソラ一人に逃げて欲しいが、今の状態の彼女を独りにして逃げられることは不可能だとオプティマスは判断した。
　
　「わかりました」

身体を引きずるようにしてその場所へと身を潜めたミソラを確認したオプティマスは、外から解らないようにするためそっと蓋をした。

　「オプティマス」

　『・・・やはり怖いか？』

　「ううん、そんなことはないよ。ただ、お礼を言いたくなったの。私を見捨てないでくれてありがとう」

囮として使うことだって出来たのに彼はそれをせず、足手まといであるミソラを守りながら逃げ続けてくれていた。
　それがどんなに大変なことなのかボロボロになっていくオプティマスを見る度、自分が足手まといでしかないことに対しミソラの胸は痛んだ。
　
　「オプティマスのことを忘れる前の私は・・・・貴方の事を助けられていた？」

傷ついていくオプティマスを見る度に自分の中の何かがざわめいている気がした。
　それの正体がなんなのかなどミソラには解らない。
　けれど、それがきっと彼を助ける鍵となっているのは明らかだった。だが、鍵を使い方を忘れてしまった自分では、オプティマスを助けられない。
　そのたびに、言いようのない感情が胸の中を逆巻く。

　『・・・今だって君は私を助けてくれている』

　「そうかな？そうは思えないけど」

　『君がそう思わなくても、私は君が一緒にいてくれるだけで救われている』

　「だったら、凄く、嬉しいなぁ」

いつの間にか瞳から涙が溢れていた。
　溢れた涙は次々とオプティマスへと落ちていく。
　伝わってくる涙にオプティマスはどうすることも出来ない自分を呪いながら、深くなっていく人間への殺意を抱きながらゆっくりとフリーズした。