ミソラとオプティマスとの間にある距離は数メートルほどだ。
　以前はなかった距離感にオプティマスの目が悲痛なものへと変わるが、ミソラはその目を見ないようにするかのように視線を足下に落としている。
　カタカタと震えている身体からミソラが今なおオプティマスに怯えていることは明らかだ。
　どれだけ呼んでも助けが来ないことと、目の前にいるオプティマスと名乗った機械が自分に危害を加えてこないことから冷静さを少し取り戻したミソラは彼と話をすることを決めた。

　「貴方は、オプティマスで良いんですよね？」

　『そうだ。私の名はオプティマス・プライム・・・君は、私のことをオプティマスと呼んでいた』

相手のことを知らないというのに、相手は自分のことを知っている。
　奇妙な感覚にミソラの目に再び涙が浮かぶ。
　オプティマスが自分を傷つけることをするつもりがなくことは解った。そして、彼が自分に対し、どうやらかなり友好的な気持ちを抱いてくれていることも何となくだが解る。
　しかし、だからと言ってどうしろというのだとミソラは思う。

　『君は恐らく出血によるショックで記憶を失っているのだろう』

それが一時のことなのかずっとなのかは解らない。
　互いの間に嫌な沈黙が落ちる。

　「どうして、私は貴方と一緒にいるんですか？私はウィトウィッキー家に帰りたいんです・・・貴方の事は絶対に人に話しませんから」

懇願するかのような眼差しがオプティマスへと向けられる。



　「オプティマス、無茶だけは絶対にしないで」



逃走中、少し無茶をしたオプティマスに対してミソラがそう告げたときと同じ瞳だった。
　だが、あの時と今のでは言葉の内容がまるで違う。
　あの時は身を案じてくれていたが、今は別れを願うかのような言葉。
　叶うのならば手を離すべきだとオプティマスは思う。
　今の彼女を独りにしてしまえば人間の科学者達は容赦なく実験台にするだろう。
　故に、オプティマスはミソラの願いを聞き届けることが出来ない。

　『それはできないんだ』

　「どうしてですか？」

裏切られた、失望した、と言いたげな瞳を向けられたオプティマスは真実を隠そうかと考えるが、下手に誤魔化せばきっと互いのこれからの関係にわだかまりが出来るだけだと判断し、今の状況を伝えることにする

　『君も私も狙われているんだ・・・人間に』

苦々しい声でオプティマスが告げた言葉にミソラの顔が凍り付く。
　そんな顔をさせたいのではないのに、彼女を苦しめているということにオプティマスは苦しむ。
　どうしてこうなってしまったのだと考えると、嫌な結論へと向かおうとする。それだけは絶対に駄目だと自分に必死に言い聞かせながらオプティマスはミソラを説得していた時だった。
　センサーが近づいてくる何かに気がつく。

　『ミソラ、今はゆっくりと話している時間は無いんだ。私の中に乗ってくれ』

ビーグルモードへとトランスフォームをしたオプティマスは助手席のドアを開ける。