酷い寒気でミソラは目を覚ます。
　この感覚はあの頃のことを嫌でも思い出させる。赤い目をした機械に支配されていた頃のことを。
　もう終わった事だ、もう会うこともないのだ。
　そう思いながらミソラは目を覚ます。

　「ここは？」

何故自分はトラックの中で眠っているのだろうかとミソラは考える。
　身体を起こしたときズキリとした痛みが腹部に走ったため、ミソラはその場所を見てみると赤黒く染まっていた。

　「ッ・・・」

一体自分の身に何が起こったのだろうかと思いながら、恐る恐る傷口に手を触れると傷自体は塞がっているようだがズキズキとした痛みがそこから全身に走る。
　身を丸めてその痛みにミソラが耐えていると、車内に突然男の声が響く。

　『ミソラ？もう大丈夫なのか？』

自分以外誰も居ないというのに聞こえてきた声にミソラの顔が強ばる。
　身じろぎしないまま視線だけを動かし、再度人がいないか確認するが誰も車内にはいない。きっと聞き間違いだと自分に言い聞かせたとき声が再び聞こえた。

　『腹部以外にもどこか怪我でもしたのか？』

　「・・・・だ、だれ？」

シートの背もたれに背中を押しつけたミソラは警戒した声で問いかける。

　『ミソラ？一体どうしたんだ？』

　「どこにいるの？」

　『私ならばここにいる』

この声は一体どこから聞こえてきているのだとミソラは必死に考える。ここにいると声の主は言っているが姿がどこにも見えない。
　混乱する思考の中でとりあえず出せた答えはここから逃げることだ。
　扉に手を掛けたミソラは勢いよく外に飛び出す。
　地面に下りたとき腹部に痛みが走ったが、ここにいるよりは良いと判断すると走り出す。

　『ミソラ！？』

突然の行動に驚いたオプティマスはトランスフォームをする。
　ボロボロの外装をしたオプティマスを見た瞬間、ミソラの脳裏に赤い目をした機械の姿が思い出された。
　自分を圧倒的な力で支配し続けたソレと、目の前にいる機械はとても似ていた。
　唯一違うのは瞳の色だけだがそんなことは今のミソラには関係ない。

　「・・・ゃ、いやぁぁ！！！」

耳を塞いでその場に座り込んだミソラの姿を見たオプティマスは言葉を失う。
　何が起こっているのか解らないのだ。
　最後に言葉を交わしたときには普通だったはずなのに、今のミソラは自分を明らかに拒絶している。

　『ミソラ、私だ・・・オプティマスだ』

　「知らない！！貴方なんて、知らない！！！・・・サム、助けて。助けて」

懐かしい友人の名を呟きながらミソラは涙を流し続ける。
　まるで自分という存在が綺麗に切り取られてしまったかのようなミソラの姿にオプティマスは混乱し、何も出来ずに立ち尽くすことしか出来なかった。
　あの穏やかな声も、柔らかな笑みも、二度と自分には向けられないのだという状況をかろうじてブレインが下すと、彼は痛みを堪えるかのような顔をして片手で目元を覆った。
　何故こうなったのだと。
　何故、彼女なのだと。
　そうなった原因は分らないが、少なくともオールスパークの力を使った事と、大量失血が原因だろうとオプティマスは予測する。

　『（ラチェットならば）』

何か有効的な手段を見つけられるだろうかと考える。
　ここにはいない者のことをどれだけ言おうとも無意味なことくらい解っている。
　それでも、今のオプティマスには願うしか方法がなかった。