ロックダウンの追ってから逃げ続けていたオプティマスの視界にはいくつものエラーが表示されている。
　深刻なエラーにオプティマスは顔を歪める。痛覚システムはすでに切っているので走行に問題はないが、それはラチェットから絶対にするなと言われていたことだ。



　『痛みがあるから限界が解る。痛みを感じなくなれば無茶をする』



彼の警告を無視したことが解ればきっと酷く怒られるなと思いオプティマスは笑う。
　皆、無事だろうかと考える。
　何度も何度も通信を送っているが応える者はいない。

　「オプティマス」

意識を取り戻したらしいミソラがかすれた声で名を呼ぶ。
　道路の端に車を寄せたオプティマスはミソラの様子を観察する。スキャンするのが一番良いのだろうが、スキャンシステムは大分前の戦いにて破損した状態だ。こんな事になるのならば直しておくべきだったと考えるが、今更そんな事を考えても意味は無いと自分に言い聞かせた。

　「あのトランスフォーマーは・・・」

　『ロックダウンという賞金稼ぎだ。大丈夫だ、無事に逃げ切れた』

だがまだ安全圏とは言えない場所にいる。
　ミソラが咄嗟に行ったトランスフォーム化がどれだけ時間を稼いでくれているのか解らない。
　安全だと思っていた場所がすでに人間達の手によって罠になっていた事から、この地域一帯がすでに敵の本拠地だと判断した方が良いとオプティマスが考えていた時だ。

　「ごめん、少し外に出たい」

シートベルトを外したミソラはよろよろとした覚束ない足取りでオプティマスから離れると、糸が切れた人形のようにその場にガクリと座り込む。
　苦しげに揺れる肩からミソラの体調が良くないことは一目見て明らかだ。
　ミソラはここ数日、ろくな食事を取っていない。
　自分の事を知っている誰かに見つかれば大変だという理由から、街に行って食事を摂ることをせず、少量の携帯食を僅かにしか口にしていない。
　行動を共にするようになってからミソラが少しやつれたことをオプティマスは知っていたが何も出来なかった。



　『司令官、あいつを手放すことはしない方が良い。逃走中に何が起ころうとも、誰かを犠牲にしてでもアンタが最後まで守り通すべきだ。・・・・その方があいつも幸せだ』



ミソラとの別れを誰よりも惜しんでいた赤い色をした部下の姿を思い出す。
　彼との通信はすでに１年以上繋がっていない。
　ある意味、誰よりもミソラを連れて逃げたかっただろう部下だが、ミソラを確実に守り通せ、そして支えられることができるのがオプティマスだと判断すると彼は自分の意思を殺したのだ。
　それがどれほどの苦しみだったのかなどオプティマスには解らない。

　『（私はミソラと一緒にいられるのだから）』

言葉を見つけられないで居たオプティマスに向かい、部下は不機嫌そうな声で答えた。
　生きてさえいれば再び会えると言って。

　「オプティマス？」

外の空気を吸って少し気分が良くなったらしいミソラはオプティマスに近づくと沈黙したままの彼の名を呼ぶ。

　『すまない、逃走ルートを検索していた』

　「無事に見つかった？」

　『あぁ』

　「良かった」

ホッとした顔をしたミソラがオプティマスの中に乗り込もうとした瞬間だった。
　地平線からゆっくりと太陽が昇ってくる。