ラチェットに連れられて部屋を出たミソラは久しぶりに見る景色を黙って見つめていた。
　何も変わりは無い。
　ただ、誰もがいつものように過ごしている。

　『平和とはそういうものだ。特に優れて何かが変わったということはない。ただ、いつものように過ごし、何事もなく過ごせることを意味している』

　「解っているよ」

顔見知りのＮＥＳＴ隊員が手を振ってきたのでミソラも手を振り返す。
　施設を出たラチェットはそのまま格納庫へと向かっていく。

　『目立つような変化は無い。だからこそ可笑しいのだよ』

　「ある意味凄く深刻って事？」

　『そうなるな』

格納庫に入ると待機をしていたらしいバンブルビーが近づいてくる。

　『”お姫様！””もう平気？”』

　「大丈夫だよ、心配掛けてごめんね。バンブルビー」

そっと彼の口元撫でてやるとご機嫌な気分になったらしいバンブルビーが軽快な音楽を流す。しかし、その音楽はすぐに止まり、彼は申し訳なさそうにある場所へと視線を向ける。
　ミソラも視線を向けるとそこには一台のトラックがあった。

　『”スーパーマンが傷心だ””治療してほしい”』

青い大きな目をきらめかせながらバンブルビーは告げる。
　彼が心からオプティマスのことを心配しているのは明らかだ。恐らく、この一週間の間、バンブルビーは可能な限りオプティマスの側に居たのだろう。
　そして彼を気遣い続けていたのだ。

　「ありがとう」

お礼を告げたミソラはラチェットを見つめる。下ろして欲しいと訴えるその視線に対しラチェットは静かに掌を床に近づける。
　自分の足で立ったミソラはゆっくりと深呼吸をするとオプティマスへと近づく。
　一歩一歩近づく度、どきどきと心臓が早く脈打つ。
　オプティマスの前に立ったミソラは少しだけぎこちない笑みを浮かべると彼に話しかけた。

　「オプティマス」

　『ミソラ』

　「少し、話がしたいな」

二人きりで。
　そう告げるとオプティマスはドアを開けてくれる。迷うことなくオプティマスの中に乗り込んだミソラの身体にシートベルトが装着された。

　「オプティマス、私は大丈夫だよ」

そっと彼の身体を撫でてやる。
　何度も何度も撫でてやると、ノイズ混じりの音声がラジオから聞こえてくる。

　『君を失うかと思った』

　「・・・不安にさせてごめんなさい。でもね、私はアイアンハイドを蘇らせたことに後悔なんてしてないよ。そしてこれからも後悔しない」

　『ミソラ、そのことだが、』

　「私はやるよ。オプティマスが反対しても・・・貴方に、とても酷いことをしているって解っている。逆の立場なら、私だって絶対に反対するもの。でも、」

一度言葉を詰まらせたミソラは考えるかのように静かに目を伏せた。
　数秒、考えていたミソラは目を開くと口を開く。

　「可能性があるのならそれに賭けてみたい」

例え自分の命が危険に晒されようとも。
　この優しい司令官を苦しめることになろうとも。